訪米時の石原発言で都による尖閣購入意向のニュースが一昨日駆け巡って来耳目を集めていますが、話題になってももっと広い戦略的文脈に置いて議論されるべきこと(日本は中国をどうしたいのか、尖閣等々が引火点flashpointとして最悪の事態が起きたときにどう動くのか)がされずに終わるであろうことが目に見えており非常に懸念されるところです。
さてβ版の第一号は時事ネタ、特に中国関連をカヴァーしていきたいと思います。
本日最初に取り上げるのはインドの弾道ミサイルAgni-Vの発射実験です。成功したとのことですが、これでインドは約5,000kmと中国の主要都市や東欧を射程に収める核弾頭搭載可能なミサイルを持つという大きなハードルを技術的にはほぼ越えました。インドは2007年4月に射程距離3500kmのAgni-Ⅲの打ち上げに初めて成功しましたが、この5年間に着実に能力を向上させてきたことになります。このミサイルは厳密な定義上はICBM大陸間弾道弾ではありません、ICBMのレンジは5,500km以上になりますので。とはいえICBMを保有しているのは米国、中国、ロシア、英国、フランスのみであり(land-based)となると米中露だけになります。今回の実験成功は特権的な「エリートクラブ」への仲間入りの足掛かりになり、インドの自信とプライドを高めるでしょう。今後は来年に似たような実験をして2014年か15年に運用可能になることが予想されています。
2番目に取り上げるのは南シナ海関連です。
China and Phillipines Navy, The Diplomat, by David Axe
10日にフィリピンと中国が南シナ海のScarborough Shoalで睨み合う事件がありましたが、海軍近代化を推し進めて軍備増強されているPLANに直面するフィリピン海軍は十分な予算が与えられず、その装備は非常に貧弱です。今回中国漁船・漁師を逮捕しようとして2隻の中国艦船に妨害されたグレゴリオ・デル・ピラー(Gregorio Del Pilar)は、米沿岸警備隊で1967年に就役したハミルトン級の艦船で、昨年引き渡された際には武装の多くが外されています。しかしこのクラス(3200㌧)でもフィリピン海軍が保有している船では最大なのです。近いうちにマニラで海軍が最大限イニシアティブをとって購入できそうなのも、やはりグレゴリオ~同様に軽武装されたハミルトン級で、両国間の大きなパワーバランスを埋めるのは非常に厳しい模様です。
3つ目に取り上げるのは中国の北極海へのアプローチについてです。16日付のワシントン・ポスト紙が報じたところ、中国は北極評議会(Arctic Council)のオブザーバー入りを目指しスウェーデンの支持を得たと外務当局者が明らかにしました。(北極評議会の加盟国は8カ国、米国、カナダ、ロシア、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、アイスランドです) また米海軍大のEricksonらの分析ではデンマークも中国との経済関係強化を優先しており資源豊かな、また新航路が地政学的に大きな影響力を及ぼすであろう北極海において中国のプレゼンス拡大を認めることになろうとのことです。
最後に注目のニュースは、先般北朝鮮の失敗したミサイルに中国のテクノロジーが使用されていた、あらゆる武器や関連した部品材料、金融取引、技術指導等を禁止した国連決議1874号に違反していたのではないかという疑惑です。Financial Timesの記事によれば、国連安保理にアドバイスする専門家委員会が北のミサイルの運搬装置の画像映像を調査しているとのこと。過去のパレード映像やインテリジェンスでイランの技術が転用されていたことは知られていましたが、中国のそれが取り沙汰されたのは今回が初めてです。もし事実と確認されたなら今後の六者協議やワシントン、東京、ソウルとの関係を変えることになるでしょう。もっとも、北朝鮮に技術供与などが為されたのが制裁が効力を持ち始めた2006年以降であることが証明されなければ、残念ながら国連安保理決議違反と断定はできないようです。