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6/19/2017

探り合い

 上司に先日の接触のこと、意見交換の話をしたら「気を付けてください」とだけ言われた。相手はロシアの人間だから当然だろう。この国で激しい情報戦を繰り広げるとも思わないが、隙を見せたら何があるかわかったものではない。

 レセプションで交換した相手の名刺を確認する。向こうは経済担当(エコノミック・オフィサー)と自己紹介していたが、こちらが地域情勢をフォローしているという話に、自分も一部カバーしていると応じていた。

 この国のロシア大使館で何人勤務しているかは承知していないが、大きな大使館だったし、レセプションを見た限りではこちらより人員は多そうだった。人手不足の大使館なら経済と政治を兼務していてもおかしくないが、ロシアの規模であれは普通はそのような体制を取らないだろう。

 当日。朝のデスクワークに一区切りをつけたところで、ネクタイを締め、メモ帳とペンだけを持って出る。移動中、どう躱すか、相手の関心事は何かに考えを巡らす。

 約束の時間の数分前に先方の指定したホテルに到着した。近いからいいかと思って受け入れたが、利用したことのないホテルだ。欧米系の大きなホテル以外でのアポはあまりないが、思ったよりはきれいでしっかりしていた。

 入口の金属探知機をパスしてロビーを奥に進む。先に到着してコーヒーを飲んでいた相手が立ち上がり、こちらに手を振った。

 形式的な挨拶を交わし、互いに席を着く。飲み物を進められたので、ウェイターを呼び、コーヒーを注文した。運ばれてきたコーヒーに一口つけると、いたって普通の味がした。本題に入る前に一言言わなくては。

「申し訳ないが急ぎの会合が入ったので30分したら行かなきゃいけない」 

 これは、嘘。話が盛り上がってもつまらなくても、だらだら続ければそれだけリスクが増す。それに、このところ地味に仕事が忙しかった。本来必要のないアポで時間を浪費している余裕はなかった。

 相手は、別に驚いた風もなく、わかったと話を切り出す。電話口では地域情勢について、としか聞いておらず、こちらも敢えて前もって余計な情報を入れないよう、尋ねなかった。何が出るかな、さいころ振ってのお楽しみ。

 最初に尋ねてきたのは某国情勢についてだった。率直に言って意外だった。ロシアが深い関心を有しているというイメージはなかったし、我が国が重要なプレーヤーとして振る舞っているわけでもない。先ずは無難な話をして、警戒を解こうというところか。

 意見交換ということで見方を「私見だが、一般論だが、」と断った上で、頭の中で情報をフィルタリングして公知の情報を基に話すように努める。この作業は何とか上手くいった。相手は淡々とこちらの話を聞いては次の質問を投げてくる。

 はっきり言ってそう刺激的ではない、固い応答ライン。この国の政府当局者がこちらの照会に応答するときを思い出す。我ながらお利口さんな答えばかり、サービス精神には欠けるが、「こいつはわかっている」とある程度中身を知っているところは示さなければならない。

 今後の見通し、キープレイヤーの戦略に対する評価、話は米国の某国に対する関与に及ぶ。ロシアとしてはやはり米国の動向は関心事か、日本から何か聞けると思ったのか。

 何が相手にとって既知で何が未知か、欲しいのは情報か、それともこちらの分析評価、あるいはその能力を探っているのか。話ながら思案する。向こうは向こうで、こちらの話に耳を傾けつつ探っているような気がした。

 合間に口の中を湿すためにコーヒーを啜る。ガードを下げないよう気を付けているが、個人的に関心があってフォローしているテーマだと、やや饒舌になりがちだ。

 時計の針に目をやりたいのをぐっと堪える。短すぎず長すぎず、適当なところで切り上げたいが、まだ早い。

6/18/2017

接触

 最近あった経験の備忘録。

 日曜午後、仕事の携帯に見知らぬ番号からの着信。また、現地の人間が間違い電話か(この国ではよくある)と思って出てみると、電話の相手が無感情な声で英語で喋りはじめた。

「君とこの国の内政、地域情勢の意見交換をしたい。今度会えるか?」

 相手の名前は、つい先日参加したレセプションで名刺交換したロシア大使館の経済担当書記官のものだった。その時は自分がロシア語を勉強したことや、モスクワに旅行したことを話題に会話を弾ませようと試み、何とも読み取り辛い相手の関心を惹こうとしたものだ。

 いつが空いている? この日の午前なら。では〇〇ホテルで会おう、君のオフィスから近い。

 アポが成立し、電話を切る。向こうがどういう気持ちかはわからないが、きっと表情は変わっていないだろう。こっちは、あちらからの接触に予想通りという満足感と、用心してかからなければならないという緊張感が入り混じっていた。