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8/29/2013

シリアに直ちに介入することが好ましくない8つの理由

久々の更新となりますが、差し迫った英米仏による対シリア軍事介入についてです。
最初に立場を表明しますと、私は人道的介入を是とします。
その上で今進められているシリアへの介入、限定的空爆という措置について懐疑的に考察したいと思います。


1.重要な(安全保障上の)国益が脅かされていない。
「(国益に)ならぬものはやらぬ」のです。

2.明確で達成可能な目標がない。
はっきりした介入後・戦後の青写真がなければ軍事的に成功しても政治的な成功に結びつけることは困難です。

3.リスクとコストが十分にありのままに分析されていない。
「意図しない結果」をもたらすリスクは常に伴うものですし、泥沼化を避けるために地上軍を派遣せず短期間の限定的空爆にとどめるとのことですが、化学兵器使用の話が出てきてから再検討・見直しを十分にした上での軍事オプションと言えるのかどうか。

4.他のあらゆる非暴力的手段が枯渇していない。
軍事的解決は最後の手段であり、中ロの拒否権で安保理が機能不全に陥っているとはいえ、国連調査団の報告次第では中ロにより真剣にシリア政府に対して働きかけさせる、外交的・政治的解決を図る道はまだ完全に閉ざされてはいないでしょう。可能性は極めて低いでしょうか。

5.際限ない関与を避けるための妥当な出口戦略がない。
今回の介入においては最初からシリア内戦そのものには本格的に介入する意図がありません。深入りしない前提なので出口戦略は必要ないものと解されていることでしょう。事が予定通りに運ばなかったとき、否応なく深みにはまったときになって慌てて戦略の修正を迫られるのは避けたいところです。

6.軍事行動の帰結について十分に考慮されていない。
2や5と関連しますが、化学兵器使用という「レッドライン」を越えたからということで受け身で始める戦いで、どこまで先のことを考えているか、影響について熟慮しているか懸念するところです。

7.軍事行動は(アメリカ)国民の支持を得ていない。
英米両国の世論調査では、空爆など軍事行動を支持しないのが5割超と、賛成する層を圧倒的に上回っています。

8.本当に広範な国際的支持を得ていない。
化学兵器は条約で禁止されており、規範・倫理の面でも当然その使用は許されないものです。また国連推計で10万人以上が既になくなっている内戦を、その一方で自国民に砲火を浴びせるアサド政権を国際社会はよしとしないでしょう。NATOの同盟国やアラブ連盟は介入を支持するでしょう、しかし実際にリソースを割き肩を並べてシリア介入に臨む国は限られています。


これらは所謂パウエル・ドクトリンにおいて設定された、軍事行動を起こす前に全てYesでなければならない質問を基にしたものであり、その全ての設問にNoで答えてみました。

介入はしなければならないでしょう、しかしこのような形で介入すべきではないだろうと率直に思います。気が進まなかったからこそ、人道的介入ではなく、「化学兵器の使用」という高いと思われたハードルを条件としたのでしょう。それが今回、アサド政権側が化学兵器を使用したことで介入を「余儀なくされた」、消極的な形で軍事行動に踏み切ることは、望ましい結果を得られないのではないだろうかと不安にさせられるのです。

今日のような状況に陥って受け身な姿勢で介入を選択することに、シリア戦略は失敗したのではないか? 読み違えたのではないか?と自問します。自分が政策当局者だったら、この条件で軍事介入をしたくはないというのが偽らざるところです。