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10/11/2014

オバマのDo the stupid stuff

オバマ大統領は経験者や専門家が語ったことに耳を傾ける必要がある。米国とフランスが「イスラム国(IS)」掃討に乗り出したとき、トニー・ブレア前首相は「地上軍派遣の選択肢を排除すべきではない」と述べたデンプシー米統合参謀本部議長も議会の証言で地上軍の関与の可能性について言及した

早くからオバマ政権の当局者が認めているように、エアパワー、空爆に依存した戦法では短期間に目に見える勝利を収めることはできない。国防総省のジョン・カービー報道官はシリア反体制派やイラク軍に地上での役割を期待する発言をしたが、両者はISを打倒するには明らかに力不足だ。

私は自由主義的・人道的介入を支持するし、ISの過激主義とテロリズムを打倒しなければならないと考えるが、今オバマ政権と有志連合が実施しているイラク・シリアでの空爆介入には極めて否定的だ。ISの残虐行為と脅威に晒される市民を見て「何かをしなければならない」というのは間違いではない。しかしただ「何かをする」のは戦略ではない。

改めてクラウゼヴィッツの言を借りるなら「戦争は別の手段による政治(政策)の継続」である。米国と有志連合の指導者は対IS戦の先の構想を持ち得ているのだろうか? 手段も目的も、軍事合理性も政治合理性も欠いたシリア空爆はまさにDo the stupid stuff、馬鹿をやることでありオバマが避けてきたことではないのか? それから、デイビッド・キャメロン英首相は野党のリーダーだった時を思い出すといい。「ミサイルと爆弾は最悪の大使」だ。

今やっているのはただのcreeping interventionだ。ずるずると深みにはまり、長い戦争を強いられる。それがもたらすのは災禍だ。米情報機関の分析では、ISは米国にリーチしテロ攻撃を行うだけの能力は持っていない。米人ジャーナリストの斬首は野蛮で吐き気を催すものだが、この見通しのない戦争を始める切っ掛けとして相応しいものではなかったろう。


英仏を蝕むポピュリスト政党の台頭

 労働党党首エド・ミリバンドは不人気だ。多くの有権者が彼を首相の器だと見なしていない。先に開かれた党大会では有権者の重要な関心事である財政赤字と移民問題についての言及を失念した(無謀にもノートなしで演説した結果だ)。エド・ミリバンドと影の蔵相エド・ボールのコンビはキャメロン・オズボーン相手に経済政策の信頼度で大きく水を開けられている。

 それでも来年5月の総選挙で、エド・ミリバンドがダウニング街10番の住人となる可能性は日増しに高まっているように思える。キャメロン首相は彼を恐れてはいない。首相にとって最も脅威なのは彼の左からではなく右から来ている。英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージェと大陸欧州と移民が嫌いな、元々保守党を支持していた人々だ。

 そのUKIPは今日、歴史的な勝利を得た。補欠選挙で、保守党から鞍替えした元職候補が同党初のウェストミンスター議会の議席を確保したのだ。この予期されていた結果に、しかし保守党はさらなる混乱に陥ろうとしている。次は誰が保守党を捨ててUKIPに走るのか? 総選挙までUKIPが支持を拡大し続け、ファラージェと寝てミリバンドと目覚める投票者が続出するのか?

 一方、英仏海峡の向こう側では、稀に見る不人気と経済停滞に苦しむオランドの社会党政権を後目に、マリーヌ・ルペン率いる国民戦線(NF)の快進撃が止まらない。先の上院選挙では初めて議席を獲得した。UKIPとNFは共に5月の欧州議会選挙で躍進した勢いを失わず、各々国内政治でも無視できない存在となった。

 英仏両国の政界を揺るがす、両党の共通点は反EUと反移民、そして反エスタブリッシュメントだ。彼らの考えがポピュラーになりつつあることは注目そして憂慮すべきことだ。トラディショナルな政党・政治家から離れた人心が、親しみやすさの裏に満ち溢れた偏見に引き寄せられている。ファラージュは「ルーマニア人が隣に引っ越して来たら心配だね」と軽口を叩き、UKIPが女性からの支持を得られていないことについて「花でも売ればいい?」とのたまう男だ。

 過去20年、ドミナントな政治の傾向は中道化、英米における「第3の道」路線の推進だった。センターグラウンドを確保し、両翼の支持層を得ることが正しい戦略だった。今起きている右からの揺さぶりが、これにとって代わるものとなるかもしれない。

9/26/2014

東アジアの安全保障と潜水艦

英王立国防安全保障研究所(RUSI)が発行するNewsbriefで、南洋工科大学RSIS国防戦略研究所のMichael Raska研究員が東アジアにおける潜水艦の近代化(modernisation)について分析しています。一言で「潜水艦は東アジアでますます価値のある戦略的資産(strategic asset)になっているよ」とまとめることができます。

冒頭で7月に韓国のType214潜水艦が進水したことに触れ、地域の各国にとって同型のようなディーゼル・エレクトリック方式通常動力潜水艦がトレンドとなっており、これが地域の戦略環境を反映しているとしています。

例によって中国の列島線、A2/AD戦略、急増する軍事費をなぞった上で、かの国の潜水艦陣営を取り上げています。中国が現在保有しているのは6つの型(うち通常動力2タイプ、原子力4タイプ)計45隻と見積もられています。注目しているのが2004年から12隻配備しているとされる元級、同研究員は人民解放軍海軍(PLAN)が同型を20隻まで増やして、ロシア製艦艇やドイツから輸入したエンジンから選択的に技術を採用して云々するのではないかと見ています。

The  PLAN  may  introduce  up  to
twenty additional Yuan-class submarines
utilising  other  key  technologies
selectively adapted from Russian boats
and  imported  German  diesel-electric
engines.  
中国は90年代半ばから、ロシアから多くて12隻のキロ級潜水艦を調達し、第4世代アムール級を少なくとも4隻購入するか検討していると報じられ、あるいは現在開発初期段階のカリーナ級にも関心があるとのこと。このような中国の潜水艦戦力増強に対し、日本や前述の韓国も対応し新造艦の調達を志向しています。

東アジアだけではなく、東南アジアでも潜水艦は重要な存在で、こちらのThe Diplomatの記事では、ベトナムがロシアから購入したキロ級潜水艦で対中非対称戦略、対中抑止能力の向上を図っていることを取り上げています。5月に南シナ海のベトナム側のEEZ内で中国海洋石油総公司が石油掘削装置を設置したことで一悶着あったベトナムは、2009年にロシアからキロ級6隻を購入することを決定し、2016年末までに様になる抑止戦略を運用し得るようになるとのことです。








9/21/2014

対中海軍戦略と潜水艦

カナダの友人が先般の安倍首相南アジア訪問についてNational Interest誌に寄稿してましたので、興味とお時間がある人はどうぞ。


中国が現在推し進めているA2/AD(Anti-Access, Area-Denial)や、これに対抗すべく米国が打ち出したAir Sea Battleについては多くの議論が為されておりますし、今更1から言うこともないでしょう。

他方で、日本がどのように中国海軍の近代化とより野心的なその動きに対処していくのかということは、いくつかの提言がありますが、米海軍大学のジェームズ・ホームズ教授の論考をやはりNI誌で読みましたので、これをたたき台に一つ取り上げてみます。

ちなみに、ホームズ教授は上記論考において、オーストラリアが現在のコリンズ級の後継候補として考えている「そうりゅう型潜水艦」について取り上げ、米海軍も原子力潜水艦(ヴァージニア級)にこだわらず、静かなディーゼル型の通常動力型潜水艦の取得も視野に入れるべきではないかと述べておられます。

誰もが指摘し否定できないところですが、西太平洋の海域において現在のトレンドで行くと、例えば2030年に想定されるところ、25隻~33隻のSSNs(+海自潜水艦22隻)で人民解放軍海軍(PLAN)の潜水艦70隻以上に対抗しなければならないという、数的不利が生じます。この47対70という数字も、戦力を全て集中できるという非現実的な前提に立っています。

この問題に対処する上で、米海軍はユニットコストが安くバジェット的にも受け入れられるし(単純計算でそうりゅう級5隻≒ヴァージニア級1隻)、日本のほか豪州ともプラットフォームを共有することで多国籍潜水艦部隊(a multinational East Asian submarine force)を組めたり、日本やグアムからだけでなく南からもオペレーショできるよと、そうりゅうのような通常動力型の優れた潜水艦をもっと組み込むのはどうだろうと述べておられるわけです。

もちろん、米海軍の潜水艦艦隊、海軍全体、議会、防衛産業から圧倒的な抵抗があることは教授も認められるところですし、オーストラリアでも既に全部日本で製造することに雇用等への影響から反対意見が出ているのは報じられているところ、簡単にスイッチできるものとは考えておりません。

さて大ざっぱにご紹介したところで本題ですが、日本が選択し得る戦術を考慮するにおいて、2pの「(日米同盟軍は)中国のアクセス拒否へにはアクセス拒否で返せ」というのがホームズ教授の基本的なラインとなります。

第一列島線に沿って展開した潜水艦、水上艦、陸上ミサイル部隊、沿岸部からの航空戦力によって、中国側が列島線上に上陸拠点を確保することを阻止し、重要な水道から西太平洋へ抜けるのを妨げ、通行を危険にできるとしております。

一言でまとめると、一種の相互確証海上覇権拒否(a kind of mutual assured sea denial)を成立させろという案です。

潜水艦戦や、ここでは触れられていませんが機雷戦は、日本が単独でも地理的+質的優位を保持しており、見通し得る将来においても中国に後れを取ってはならない領域でしょう。

10年後20年後を予測することはできませんが、中国経済が決定的な破局を迎えでもしない限り、かの国は海軍を含め軍事力の全面的な近代化・増強に多くのリソースを割いてくるでしょう。

日本や米国が十分な投資を行わない場合、彼我の戦力差が縮まるのはもちろん、一部では質的に逆転される可能性は否定できないものです。

絶対的な経済力・軍事力において日本が中国と張り合うのは基本的に難しいと見られるところ、相手方の弱い部分を的確に衝けるようにしておくことで、中国側の戦争のコストを引き上げることが求められます。


9/06/2014

フェローっていいねって話

 月曜に帰国して火曜から日常に戻りました。

 今回のハワイ、それから今年3月にワシントンDCで行われた国際会議・フォーラムには所謂フェローの資格で参加しましたが、経験を踏まえて自分なりに「フェローシップのここが素晴らしい」と認識した点を書き出してみます。

① お金を出してもらえる。
  院生・若手研究者にとって国際学会・ワークショップの類に参加するための費用を負担してもらえるのは大きい。航空券代、宿泊費、会費、食費、空港からホテルまでの交通費、これらを払ってもらえる。ほとんどタダで渡米できるのは素晴らしい。

② パブリケーションや政策提言の機会が得られる。
  カンファレンス・ペーパーや、あるいはシンクタンクが提携している媒体で自分の書いたものをパブリッシュできる。また、他の媒体にもPR部門の協力を得てアプローチすれば掲載される確率が高まる。影響力のあるシンカーへの第一歩となる。

③ CVに書けることが増える。
  貴方の研究やリーダーシップを磨くことにスポンサーがついた、すなはちお金を出すに値するとの証明書が与えられた。フェローの力で掲載できればパブリケーションレコードの項目も賑やかなものとなる。

④ オールドボーイズネットワークへようこそ。
  政府、シンクタンク、大学、民間、NGO、ジャーナリズム、これらの世界で将来上に立つかもしれない各国の若手と交流し議論し切磋琢磨していけるのは他所では得られない「資産」となるだろう。築いたネットワークはいずれ仕事や研究の上で助けとなる日がやってくる。

⑤ キチョハナカンシャ、シニアに話せる訊ける覚えてもらえる。
  そしていつしか自分がシニアになるかも。日本の新聞メディアにも登場するM緑さんやエアシー総本山の偉い人と名刺交換し、質問し、自分の考えをぶつけることができる。何度も繰り返して印象付けることができたら、何かいいことあるかも。

 ざっと挙げてみましたが、このような機会を得られたとして、それを活かすのも殺すのも己次第であるととみに思います。

 安全保障、それも日米関係に限定されますが、国内であれば平和安全保障研究所(RIPS)の日米パートナーシップなどは、特にアカデミックなキャリアを志向する方なら是非トライしたほうが良いものでしょう。

 また、ハワイのEast West Centerには、ハワイ大で修士号もしくは博士号取得を目指す応募者限定ですが、24か月資金を出してくれるフェローシップ・プログラムがあります。

 だいたいこんな感じです。

8/30/2014

ハワイにて

とある安全保障フォーラムのためハワイ・ホノルルに来ています。

今回の会議は米国と台湾のシンクタンクが共催する、台湾や両岸関係、アジア太平洋の安全保障をテーマにしたものです。

今年はNational Interest誌にミアシャイマーの"Say Goodbye to Taiwan"が掲載されたり、5月に習近平がCICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)で「アジアの安全保障はアジアで解決されるべき」と述べたりなど、いつものことですが日本の集団的自衛権行使も含めて話題が豊富で刺激的な議論が展開されました。

米台関係や両岸関係、そして日台関係は私の専門ではないですし、普段日本のメディアにおいて国際関係で台湾に目を向けることは稀なので、いい勉強の機会でした。

ここで全てを書くことはできませんが、「フィンランド化」という表現が何度も登場し、中台サービス貿易協定とそれを受けての向日葵運動が言及され、台湾の未来に対する不安や危機感など、台湾からの参加者を聞いてつぶさに感じ取ることが出来ました。

地域の安全保障は厳しさを増し、と最近よく言われますが、台湾にとっては特に切実です。米国に見捨てられるリスクとそれに対する恐れについては、尖閣を巡って必死に大統領の明示的な確証を取りに行った日本以上です。

また、集団的自衛権を行使可能にしようとする日本に対する期待も強く感じられました。もとより旧宗主国で米国の同盟国で自由民主主義国とあって、日本を味方と見てくれているとは思っていましたが、想像以上のものを同じ若手研究者・専門家の話から感じました。ある意味日本について楽観的に見すぎているのかなという気もしました。

このような国際会議の場に日本の若手が参加し、時に発言しプレゼンスを持つことは非常に大切であると思います。プレゼンターを務めるシニアの見方は当然勉強になりますし、コーヒーブレイク時に質問したり挨拶したりネットワーキングするのも大事です。

さて、余談ですが、用意されたホテルで台湾人研究者と相部屋になり、色々語らうことができました。

彼は私たちが参加しているプログラムに5年以上前から参加してる先輩になるのですが、「昔は日本人と韓国人は仲良くしてたけど、最近はそういう機会が減ったね」という旨を指摘されました。

その時の会議のテーマ、場所によって顔ぶれは変わりますし、個人的にはこれまで行われた会議やワークショップではあまり韓国人と知り合ってないので何とも言えないですが。

この数年間の両国の関係悪化の影響が若手の交流に及んでるとしたら、両国にとって望ましくないことでしょう。米国、台湾の専門家の知り合いを増やすことができたので、次は韓国の知日派とネットワークを形成できたらと思います。


8/21/2014

グローバルスーパーリッチ×ペイ・フォーワード=アイス・バケツ・チャレンジ

むか~しむか~し、あるところに、ホワイトバンド(ry

今巷で話題のALSアイス・バケツ・チャレンジですが、次に3人に繋いでいくというので「Pay It Forward」を思い出しました。いい映画です。泣けます。ハーレイ君が成長する前です。

ALSという難病に対する認知度を高め、かつ寄付を募って研究等を支援するという善行、善意のアクションです。とても素晴らしいと思います。

ですが、個人的にはかなりscepticalにならざるを得ません。アイス・バケツ・チャレンジ以前から、この手のキャンペーンについて疑問を持ってきました。前々から「KONYはどこに消えた?」と問い詰めたいし、ミシェル・オバマの#bringbackourgirlsにイラッとしてきました。





上に挙げた過去の事例でお気づきになられた方はいるでしょうか?

いずれも一過性のキャンペーン、アクションがPRとしては成功したかもしれないけれどもプロジェクトとしてアチーブメントを得られなかったものです。

瞬間最大風速、一瞬の話題性はあるものの、運動として強度・熱量を固定して持続できず、流行が過ぎればそれで終いとなったものです。

先ほど「PRとしては成功」としましたが、啓発という点で考えても、人々に課題・問題を深く理解させることに成功したかは疑問が残ります。ホワイトバンドを「あー、ヒデがやっていたな」ということを思い出せても、何を目的としたキャンペーンだったか思い出せる人間がどれだけいるでしょう?

ビル・ゲイツ、ザッカーバーグ、スピルバーグ、いわゆるグローバル・エリートやセレブリティがWAになって氷水被ることで注目とお金は集まっているけど、ニュースとして消費されてそれで終わりになることを強く危惧する次第です。

次に、数多ある難病や問題の中でただ一つALSが取り上げられて、患者さんとそのご家族、治療法を探す研究者は支援を受けられて救われるかもしれないけど、その他は?

ちょうど今借りて読んでるPlutocrats: The Rise of the New Global Super-Rich and the Fall of Everyone Elseの邦訳から次の部分をご紹介します。


「慈善資本家が及ぼす力は大きく、一国の社会的セーフティネットを意図せず変えることすらある。アフリカの一部の国では苦情が出ている。現地の医師や看護師が、ゲイツの潤沢な資金をもって進められてるエイズ治療薬、結核ワクチン、マラリアワクチンの無料配布プログラムに気を取られ、地味ではあるが、人びとが心から必要とする日常の医療行為をおろそかにしているという」(p120)
ALSアイス・バケツ・キャンペーンはjustでrightだけど、unfair。例えば新井克弥氏の「とりあえず全員がトクする」という見方は、距離を置いて外から見ると必ずしもそうだとは言えないところがあるのではないでしょうか。

繰り返しますが参加者はお金も影響力もある方々です。それがみな一つの方向へ進み、一つの病気をフォーカスしたときの勢いや既に我々が目の当りにしている通りです。それだけに注目やリソースが相当偏ってしまうことを懸念するのです。

このキャンペーンの目的や動機は断じて否定されるべきものではないのですが、それゆえに悩ましいと思います。


8/17/2014

ロシアのウクライナ侵攻?

この1週間弱というもの、ロシアがウクライナに侵攻するのではないかとの見方が各所から示されています。(参考:露軍事専門家・小泉悠氏解説

15日には英Guardian紙はロシアの装甲兵員輸送車23台と補給用のトラックなどの車列がウクライナ領に侵入したと報じました。その後、ウクライナ側からロシアのコンボイを破壊した旨発表されており、ロシア側はこれを否定しました。

これまでのところ「ロシアは本格的な軍事侵攻に踏み切らないだろう」という見方をしてきたのですが、一段と緊張が高まっている今も基本的なラインは変えなくてよいのかなと考えています

ウクライナ東部においてキエフのポロシェンコ政権の統治を否定する武装勢力を支援して不安定化を図る、当初の政策は継続するでしょうが、口実を設けて(人道支援?)大部隊を越境させて云々する可能性は低いと見積もります。

個人的にはロシア側に現時点で軍事侵攻の意図はなく、欧米発の侵攻懸念は情報戦や心理戦の一環なのかなと見てます。根拠は特にないですが。より効果的な作戦を遂行するにはいいタイミングではないのは確かでしょう。

検討すべき要素、リスク因子は多々ありますが、欧米筋から牽制球が投げられている状況で、クリミア併合までのようにスムーズな作戦を展開することは難しいのではないかと見ます。

裏をかいて出し抜くことができなければ、望ましい成功を得るのは難しくなります。

そして、「なぜ今やるのか?」という点でもっともらしいものが無いかなと。不安定化への関与から自ら軍事行動を起こすのはプランにあるにしても、ギアを上げるポイントがここである理由が特にないのではないでしょうか。リスクもコストもかかる介入作戦へ、それは政策の継続でなく一つの旋回(pivot)となる以上、そこには相当な根拠と支柱が要ると見ます。

ロシアにとって、プーチン大統領とクレムリンの面々にとって、主体的に大きなピボットを行うのは、ワシントンの政策立案者が考えているよりははるかに難しいものと見ます。

思えば連合協定潰しにしてもクリミア併合にしても、ロシアは受け手に回っていました。決して場当たり的やその場しのぎとは評価しませんが、必ずしも有利に、上策を打ってきたとは言えないのが実情でしょう。

ここに来てロシアが仕掛ける、というのは一貫していないし合理的でないし、警戒する西側が情報戦で一手封じにかかったというのが個人的見解です。


7/20/2014

アイアンドームに見るイスラエルのしたたかさ

去る7月2日に戦略研究学会の講演会でかのマーティン・ファン・クレフェルト御大の話を直々に伺う機会がありました。

氏は話の中で、「イスラエルは『弱く貧しい』哀れなユダヤ人国家が『豊かで強くて邪悪な』アラブ諸国に侵攻されている!というnarrativeで国際社会(≒the West)、とりわけ同情と莫大な支援を得てきた。シモン・ペレス(現大統領)はこの世界(物乞い)のチャンピオンだね」といった趣旨のことをさらっと述べておられました。

ウォルト&ミアシャイマーのThe Israel Lobby and US Foreign Policyの前半部分第1章"The Great Benefactor"に詳しいですが、2005年までにイスラエルは経済・軍事支援で計1540億ドル相当の支援を米国から受けてきました。これはほんの一例で、陰に陽にイスラエルは米国から多くを得てきました。

今再び、パレスティナ・ガザ侵攻と対ハマス軍事作戦が連日国際ニュースのトップを(ウクライナ東部でのマレーシア航空機撃墜事件と並んで)占めていますが、今回改めてイスラエルの貢がせ上手を再確認させられました。

それは同国のミサイル防衛システム「アイアンドーム」についてです。(以下はForeign Policyの記事を参照にしております。)

今般の紛争においても、度々ガザ等から発射されたロケット弾を迎撃・無効化し、イスラエル側の犠牲を抑えています。イスラエルは最終的に地上軍侵攻作戦に踏み切りましたが、人口密集地への攻撃を(イスラエル側曰く)90%シャットアウトできるアイアンドームは、犠牲者の最小化で報復地上戦の必要性を薄れさせていたとの指摘も出ています。

このアイアンドームについて、米議会上院歳出小委員会(appropriation subcommittee)は7月16日、プログラムの拡張にさらに1億7,500万ドル拠出すること(2015年会計年度の国防総省要求1億7,500万ドルに上乗せ、つまり倍増と筆者理解)で全会一致で合意しました。ちなみにアイアンドームは2011年以来7億2,000万ドルの資金支援を受けています。

しかも、今年3月5日の両国間の合意でアイアンドーム関連の生産(イRafael社と米Raytheonがパートナー)について2014年に30%、2015年に55%を米国内で生産すると取り決めたとのことですが、以前は米国内での調達は予算の3%程度でしかなかったとのこと。

米国からも資金がつぎ込まれることへの支持理由は(1)多くの市民の生命を守っている(2)費用対効果に優れている(3)アイアンドームの技術が米国のミサイル防衛システム改善に資するといった観点から。

最終的に米国の防衛能力向上で回収される名目があるとはいえ、兵器システム開発で多分に米国の支援に裨益してきたイスラエルには、ただただ驚嘆するのみです。

ケリー国務長官が最優先で取り組みながら失敗に終わった中東和平交渉や今回のガザ侵攻で、米国は支援を梃子にイスラエル側の意思決定に影響力を及ぼせていないなと感じますが、米国内におけるロビーも含めてやはりイスラエルは「特別」だと思いますね。


6/23/2014

セルフヘルプ

失敗というのは自分を見失ったり、日頃の意識付けができていなかったり、大きな枠組みを失念した時に起きる。

集中したり注意を払っているときに失敗する人は少ない。たいてい、気を抜いていて、深く考えずイージーに繰る時に過ちを犯す。

無意識に不用意にやったことが自らに深い傷を残すことになりかねない。そうならないためには、集中が切れ力が抜けた時に露わになる本性を磨かねばならない。

意識を失った格闘家がなおも体に叩き込んだ動きをとるように、日頃から己の脳の奥に意識付けをしなければならない。

敵は己にあり、自分もまたリスク因子。

困ったことにならないための危機管理、その基本、要諦を3〜4点ほど。

1. 誰かが見ているという意識付け
 政治家が失言するのは身内の会合や支持者向けの講演が多いと言われる。記者に囲まれている場で舌禍をやる者はほとんどいない。いつ、いかなる時も、自分が主役であると心構えていれば、気は引き締まるもの。

2. いつも通りは落とし穴
 繰り返しと馴れ合いが危機に対する感覚を摩耗させる。いつもやってることさ、みんなやってるさ、で油断して痛い目を見てからでは後の祭り。1と重複する点もあるが、自分を中心に置いて、内側にあるものによって行動を決める。環境に流されるのではなく、環境を見て。

3. 相手を過小評価しない
 侮りや慢心はケガの元。

4. 優先すべきを決めて、セーフティファーストで
 銃を突きつけられたら両手を上げ、撃たれまいとする。何が大事か、咄嗟に判断するのは難しいから、予め簡単に決めておく。何かを守るには何かを諦める必要が出てくることもある。
付言するなら、ヒューマンエラーは起こり得る、完全な予防策はない、先の事はわからない。

だからこそ、備えあれば憂いなし。

4/22/2014

オバマ訪日、日米関係を太平洋網へ拡大する時

ちょうど1カ月前になりますが、ワシントンで日米関係についてのトラック1.5(政府当局者と民間識者の双方が参加する)の会議があり、両国の政治、経済、そして安全保障について意見が交わされました。

クローズドな会議のため内容は詳らかにできませんが、若手として末席で議論、指摘、批判、反論、応酬を聞いていた身として、オバマ大統領の訪日直前に意見を述べたいと思います。

中国のプレッシャー、予測不可能な金正恩の北朝鮮と、東アジアの安全保障は過去数年変わらないチャレンジに直面しています。

日米関係の内部に目を向ければ、米国の力の限界、財政的制約と国防費削減、国民の内向き・対外関与に消極的な姿勢が一方の課題であり、他方で安倍政権の方向性、歴史問題をめぐる摩擦、人口減少する日本の国力の持続性がともすれば懸念材料とされています。

不確実性の時代に財政的にも外交的にも緊縮的な米国と、内外の挑戦を受けて、日米関係を再定義しアジア太平洋の安全保障秩序の再構築が求められているのが、現在の情勢と言えるでしょう。

合衆国大統領としては18年ぶりに国賓として日本を訪れるオバマ大統領と、安倍首相の首脳会談では、変動するアジア太平洋に両国が機軸となっていかにアプローチするか、特に東シナ海の尖閣諸島のみならず、南シナ海でも周辺諸国と摩擦を引き起こし、紛争リスクを抱える中国に明快なメッセージを送ることが肝要となります。

なお、TPPの対立する事項について政治決断で乗り越えて大筋合意に持っていくのは、今回の訪日でなければならないものではありません。

米国の政治事情から、中間選挙前にオバマ大統領が議会からTPA(貿易促進権限)を得る可能性は極めて低く、最終的にTPP交渉が包括的に妥結するのは来年以降と踏みます。

オバマ大統領は、今回の訪日で日米安保への強いコミットメントを再保証することが不可欠でしょう。シリアやウクライナ、世界の裏側での外交でオバマ大統領のアクションを伴わない言葉に対する信頼度は低下していますが、それでも東京ではっきりとした文言で日米関係を強調することに意義はあります。

過去数ヶ月に安全保障政策でいくつかの決断をし、安定した政権基盤の上にリーダーシップを発揮できた安倍首相は、日本の国際協調主義への転換をアピールするとともに、日米関係を通して地域のスタビライザーたらんとするところを明確化する必要があります。

現段階では時期尚早でしょうが、日米は二国間に加え、多国間の枠組み作りの形で、より重層的で安定的な地域の安全保障体制を支える共通のビジョンを打ち出せたら良いと考えます。

拡大された戦略的ネットワークは、日米が地域の安全保障と、その上に成り立つ経済的繁栄にコミットする有用なツールとなるでしょう。

もちろん、中国に対する脅威認識と対応や、北朝鮮政策において、日米関係の中にもギャップが生ずることは、互いが互いの国益を追求していく中においてあり得ることです。

そこで、前もってビジョンをしっかり共有しておけば、方向性が大きく食い違うおそれは小さくなります。言わずもがな、関係をメンテナンスする上で両国間での緊密な協議を増やすことが求められます。

21世紀の国際政治の重心は、我々が生きるアジア太平洋にあります。この大きな歴史的地政学的変化に適応するため、この日米関係を再強化し、存分に活用することが求められています。


4/13/2014

プーチンのガーデニング

 クリミア編入から3週間とちょっと。ロシアによるさらなるウクライナ領の切り取り、それはwhether(起きるか否か)ではなくwhen(いつ)が問題だったわけですが、新生ロシア帝国初代皇帝陛下はこの週末に動いた模様です(guardian記事 BBC記事

  欧米の政策当局者やメディアは大騒ぎですが、プーチン大統領にとってはお庭の手入れをするようなものでしょう。いやわりとマジでそんな感覚だと思います。

 国境付近に軍を集結させて今にも大侵攻との観測を出させながら、謎の武装集団オソロシアを繰り出して各都市の治安当局建物を占拠するというオプションを選んだのは、害虫駆除に戦車は要らぬと言ったところでしょうか。よく統率されている組織化されたオペレーションと表現されていますが、無秩序に銃を乱射する武装勢力よりはなんぼかマシでしょう。

 軍事的、局地的、短期的にウクライナやこれをバックアップする欧米がロシアに対抗する術はありません。クラウゼヴィッツ曰く「戦争とは別の手段による政治の継続」である以上、最終的に政治的に巻き返すことは不可能でないでしょうが、それは何を目的とするかに次第でしょう。
 
 クリミア(海軍基地)に次いで東部(工業地域)の確保に乗り出したわけですが、行けるところまで行くなら、南部のオデッサも掌握したいのが偽らざるところでしょう。先月28日付のForeign Policyの着眼では、オデッサの港からロシアの武器が中東方面に輸出されているようで、仮にオデッサが使えないとすると、武器を運ぶ海運会社Rosoboronexport社が使えるのはカリーニングラードとサンクトペテルブルグとなり、運搬コストが問題になるそうな。

<のーと>


○欧米(West)から見れば侵略なのだが、モスクワは心の底からこれが「奪還」の戦いだと見なしている。根底にある世界観の違いや世界観の形成に影響を与える歴史を理解し、ウクライナ危機を拡大された歴史の文脈に置かなければ、ワシントンや欧州の政策担当者は過ちを犯す虞がある。

○プーチンとクレムリンの仲間たちの世界観はいたってシンプルで至極読みやすい。彼らはリアリストで地政学的思考の持ち主で、勢力圏や緩衝地帯といった、西側が「古い」と見なす考え方を強く保持している。

○これに対してリアリスト的な答えは、「ロシアの勢力圏を尊重せよ」となるだろう。モスクワにとってまぎれもない安全保障上の核心的利益というものがウクライナにあり、それを守るためにロシアが許容できるコストとリスク、得られると考えているリターンは米国や西欧のそれとは比較にならないほど大きい。

○ソ連の栄光を取り戻したい、強いロシアの復活を目指すプーチンにとって、大局的には未だ「不利」な情勢にある。政変以降、ウクライナは彼の手を離れたままだ。「防衛ライン」がウクライナ内、それも東側まで後退したのは戦略的に容認できるものではない。

○「全盛期」はプラハやブタペストで両国の運命を決することができた。それと比較すると、今日のロシアはより自国に近いところでよりリスクの高い行動をしなければならない状況にある。そこに「恐怖」があり「安全保障のジレンマ」があり、状況をさらに悪化させる双方の政策ミスが起きるおそれがある。

○欧米諸国のウクライナに対するアプローチもまた誤った前提の上にある。

○ヤヌコビッチを追い出し暫定政権を作った連中は信頼ならざる「エニグマ」であると見なすべきだ。欧米は誤った側に立つ人間を支援し関与し失敗した経験がある。90年代のロシアにおいてオリガルヒの政権を、00年代のカラー革命に後にやはり腐敗した金権政治家に肩入れした結果がどうであったかを思い起こす必要がある。

○自由と民主主義の旗手を自称する者たちは、ウクライナのリアリティを無視したビジョンの投射をやるべきではない。ウクライナに少なからずいる民主主義者たちを失望させたくなければ、民主主義が根付く土壌をまずは用意するべきだ。

○法の支配の何たるかを知る者が、ソ連で生まれた政治家、オリガルヒ、テクノクラートらがどれだけいるか?  ソ連時代から抑圧の手段であった法執行機関が市民の人権を尊重しつつ治安維持の任務に当たれるか? 
○もしウクライナを自由民主主義陣営に迎えたいと思うなら、これらの領域におけるキャパシティ・ビルディングを行うことが中長期的な成功の条件となるだろう。

 

2/11/2014

ヒトの話を聴け

とあるアンパンマンみたいな顔した某党幹事長が、どこまでも続く田中角wayで選挙について話していることに、「握手した人数以上の票は出ない」というものがあります。

これは至言だなと個人的に思っていて、昨今のネット選挙だ〜と意識高く現実世界から飛んで行っている連中は、いつぞやの焦げパンマンになったゲルの画像を眺めて、骨の髄に選挙がコミュニケーションであることを叩き込む必要があると思うのです。

よくネットの利点は双方向でインタラクティブと挙げられていますが、そこでのコミュニケーションは狭くクローズドで、仲良しこよしな内輪で盛り上がって視野が狭まっているんですよね、どの陣営を観察していても。

Twitterで泡沫候補の家入氏の支持者などを見かけたんですが、ポスターのアプリが凄いヤバい熱いな感じで、楽しそうだけど外野にはちっとも伝わってこなくて、共有するところが見出せなかったですね。

家入氏とその周辺部に見るのは、アプローチしてきたりリアクションをくれる一部ばかり見ていて、もっと遥かに広い有権者全体をち〜っとも見ていない、ディスコミュニケーションしてるってところです。

敗戦後の彼のツイートでネットでもっと発信していきたいというものがあったのですが、彼の発信が拡散・伝播するのは極めて限られた範囲で、サークルのメーリスみたいなものに終わるでしょうね。あるいはチェーンメールかな。

冒頭に意識高いと表現しましたが、政治クラスタに参加してアクティブなのって、インターネッツにおいてさえ限られた層なんですよ、況や現実をやなんですよ。

政治クラスタですら細分化・極化して交わらないところがあるわけで。試しに旅行とか美容とか剛力とか、政治と縁遠いワードでブログ検索でもすりゃわかるでしょうが、日頃全く関心がないのが圧倒的多数で、そういう層にリーチしないでしょ。

そんでもってご承知の通り、我が国はシルバーデモクラシーの世界チャンピオンでして、最も数は多く、数の力で意識高い20代を圧殺する層はリアルでないと捉えられない。

あと、発信面の問題以上に、受信面の問題が非常に大きいかなと。

選挙においてネットを最も上手に活用しているのは自民党だと理解しています。なぜ? 世論調査と並行してネット上に溢れる「声」を拾う努力(ソーシャル・リスニング)をしているわけでして。

他の陣営はあまり「他人」の話を聞かない、マインドセットが強化されて現状分析が出来ていないのが多いと。あくまで観察できた範囲内ですけどね。

ここで留意しておかなければいけないのは、サイレントマジョリティーはネット上では拾うことが難しい。というかパッシブなので、メディアが拡声しようにも声自体発していないことが多々あるわけで。

そのような多数派は、モニターの前では見えない。街に出て、行き交う人を見なければ、と思うところです。実際、街を歩いてみて、どの地域にどんな人が住んでいて、住宅はどんな感じか、車はトヨタが多いなとか、グーグルマップとかデータ化された資料では抜け落ちた情報があり。

繰り返しますがネット上で拾える声なんてごく一部だし、発信したのが届くのも現状限定的。

テクノロジーの進歩と、その有効活用で社会をより良く変えていけるというのも間違いじゃないんだけどね。

SNSやIT、アプリを巧みに使いこなして洗練された選挙カッケーはわかるんですよ。けど、所詮は手段のための手段に過ぎないわけで。ダサかろうが泥臭かろうがかっこ悪かろうが、勝たなきゃ。


文明とは伝達である。でも、何かを表現していなくても、そこには人間が存在していてね。


2/09/2014

TONOSAMA細川元首相はなぜ敗れたのか?

国政選挙のない年に都知事選挙を安倍ちゃんの審判と位置づけようとしてあえなく失敗した諸君、ご苦労様です。

各社世論調査や自民党の独自調査では大勢は決しつつあり、消去法で消極的支持を集めた舛添元厚労相が勝つ可能性が高いようですが、つまらないね。

ただ、選挙はお祭りかもしれないけれど、2期8年の都政を委ねる我々都民としては、無難、安パイ、マシの都知事で粛々と、某O阪みたいに振り回されなければいいだけでしょう。

さて、本日はなぜ元首相のお殿様が、あまりポジティブな評判を聞かずネット上で右からも左からも砲火を浴びている片山さつきの元旦那・・・のみならず弁護士でもけんじとさえどっこいおむすび君な結果に終わりそうなのかを分析と称して書き連ねていきます。

敗因は色々あるでしょう。あの黒い背景にぼんやりとした76歳が佇んでる感じのポスターもその一つでしょう。

着眼するところは「マイナスからプラス! ネガティブからポジティブ!」です。smile!

昨年の五輪招致成功によって、2020年を一つの節目として目標を持ち、この不確かなことが多い時代にはっきりとした未来を持ち得た人は少なからずいるわけでして。

失われた20年に疲れ果てた民草にとって、少しずつ出てきた上昇気流に乗って一息つきたい、前向いて生きたいのが偽らざるところでしょう。

そこで「脱成長」だの「五輪返上」だのダウンフォースかける、潮流が掴めていない。20年前、10年前の首相連合という過去(それも苦しい時代)からの来訪者に惹かれるものがないのです。

あと、8か月で首相を辞任した細川元首相も、また5年総理の座にあったジュンイチローも、当初は期待を膨らませたけど大きく裏切ったよねーと。

民主党の3年3か月も加えて学習したから、期待値低めな安倍ちゃんでも返り咲き、まずまずの短期的成果にやや高い支持率がついてきてるのでしょう。

次いでに言えば朝日あたりの調査で景気雇用が争点との回答が3割と高齢者福祉を上回っておりますが、まだまだ景気回復が途上で弱いことを反映しているのかなと。

このような基本前向き、だけど過度に楽観的ではなく現実的な有権者の多くを、2人は見誤っていた。いや、そもそも見ていたかも怪しいでしょう。

小泉で脱原発ワンイシューで突破だ!と05郵政選挙よ再びと思われたのもいるでしょう。タネの割れた手品が簡単に通用しなくて良かった、と心底思います。

「過去」の成功体験に囚われるのは典型的な失敗の本質でしょう。むしろ目を向けるべきはより最近の総選挙であり、都議会選挙であり、参議院選挙でした。はい、「脱原発」は争点にならずその勢力はことごとく敗れました。

だいたい、小泉劇場なんてのは監督・主演・脚本演出小泉で成り立つもので、今回の主演すなはち候補はあくまで細川元首相である以上、はなっから無理でした。自力で風を作った小泉、かたや小泉フィーバーに頼った細川、役者が違いました。 

「過去」に足をとられたと言えば、まさにカネの問題で辞めた知事の後任を選ぶ選挙、カネで失敗し評価を落とした人は選ばれにくいものでした。

訴える本人に問題あり、訴える対象を見誤り、訴える時と場に疑問符がつき・・・負けに不思議の負けなしです。天・地・人全てを欠いた殿様無様。

 

1/09/2014

2014年の世界のリスクを考える~後編

2014年もあっという間に1週間が過ぎ、日々起きる出来事のフォローに追われてる。

さて、遅くなりましたが2014年の世界のリスクを考える、後編やります。

6.新興国のスローダウン
 過去数年間、金融危機に見舞われた米国や欧州に代わって世界経済を下支えすると言われていた国々だが、その成長が鈍化、あるいは陰りが見えている。BRICSのうちロシア、ブラジルは今年五輪、W杯という国際的なスポーツの祭典を控えているが、どちらも過去2年に経済成長の勢いを失っている。中国は高度成長から次のフェイズへと進もうと各種改革が行われようとしているが、経済構造の転換に難儀しており、不動産市場の高騰やシャドーバンキング、地方の債務問題などが下降圧力となっている。
今年の材料は米FRBによる金融政策の漸進的平常化だ。昨年すでにその観測でトルコ、インドネシアなど、新興国市場にそれまで流れていた資金が逆流して一時的に通貨が急落するなどした。2008年の金融危機発生時には新興国のデカップリング論も出たが、蓋を開けてみれば世界経済に組み込まれ、より一層影響を受ける状況にあり、米国の金融政策はタイから南アフリカまで、多くの国々の経済を減速させる。

7. 大衆運動と政情不安
 1月5日に野党不在の総選挙が行われたバングラデシュ、2月に急遽選挙が実施されることになったタイ、EU派とロシア派に引き裂かれるウクライナ、国軍のクーデター以降の不安定が続くエジプト、と以前から政情が混乱している国は2014年も引き続き反政府の抗議に悩むことになるだろう。このほかにも、例えば昨年7月の選挙で野党が躍進したカンボジアでは、賃上げを求める労働者のストもあって年末年始にかけて不安が拡大した。中進国や製造業を中心に外資が目を向ける労働力が安価な途上国では、汚職など政治への不満や、賃金など労働環境の問題から、通りで抗議する流れが勢いを増すおそれがある。

8.「中国」の手綱を握る習近平
 中国は明らかにそれまでの「平和的台頭」路線から転換した。一方的で突然な防空識別圏(ADIZ)の設定は日本、米国、韓国などとの不要な摩擦を生じさせたが、やがて既成事実になると踏んで北京の政策決定者はさまざまな効果を期待して戦略的にテストしてきたと言える。東シナ海、南シナ海で引き続き波を高くするだろう。
 国内経済や社会の問題に対する批判を、プロパガンダによって醸成した中国国民の日本への敵意を利用することで逸らす動機・効果もあるだろうが、それは副次的なものと見た方がいいだろう。中国のサラミを一枚一枚薄切りするように外へ伸張する戦略は、東アジアの秩序を変化するバランスオブパワーに沿うように作り替えるものだ。
 日本や米国、地域の諸国は剛柔使い分けて中国を望ましい方向に導く、あるいは今ある枠組みの中でフィットさせようとしているが、中国をコントロールすることは叶わないだろう。
 中国自身も、習近平も、大国となった中国を巧みに操れているのか疑わしいところがある。中国は外交巧者と見る傾向もあるが、かの国とその指導者に、現代の国際社会で、大国のパワーを有する中国をさらに台頭させる上で必要な術を教えてくれる教訓は中国自身の歴史にはないだろう。

9. サイバー空間における脅威
 国家・企業、時として個人に対する潜在的リスクは高まりこそすれ下がることはない。
 国際協調の枠組み、法的環境整備が徐々に進んでいるとはいえ、基本的に自然状態な領域であることに変わりはない。 悪意を持った国家や犯罪組織が比較的リスクの低い見えない攻撃をこれからも重用するだろう。

10.中東
 ご覧のありさま。見通しは据え置きでネガティブ。良いニュースが悪いニュースより多い可能性は極めて低い。以上。


1/02/2014

2014年の日本政治を読むという徒労

2013年レビュー

2013年は夏の参議院選挙を経て久方ぶりに安定政権が樹立されたことで、日本政治は混沌として複雑怪奇な状況を脱した。経済政策においては黒田日銀体制での金融緩和拡大と財政支出拡大の統合マクロ政策が奏功し、各種経済指標に明確な改善が見られた。二院を押さえたことに加えて、経済面での成功を背景とした高い内閣支持率+政党支持率を維持している安倍内閣は向こう3年間、国政選挙を気にせず、中長期の視点を持って政策を推進するマンデートを与えられた。

一方で野党はクレディブルな代替ビジョンを提示できていない。反対し、批判するのは重要な役割の一つであるが全てではない。特に民主党は政権を一度担当して国民を大きく失望させた手前、その声を聞いてもらう状態にない。分裂したみんなの党、いつ分裂してもおかしくない維新の会も新党設立時のフレッシュさやモメンタムを失った。

野党が頼りない中、自民党に対して有効な拒否権を有しているのが連立与党である公明党である。既に集団的自衛権を行使可能とする解釈改憲は先送りされるなど、政策面で一定の影響力を及ぼしている。

 

経済政策は先行き不安も

何にも増して重要なイベントは4月以降の消費税引き上げだ。経済の好転に伴う税収増を財源に、新規国債発行を抑制しながらの財政政策による手当は、短期的な経済の減速をある程度低減できる。同様に鍵を握るのは日銀の追加緩和であり、これが増税前になるか、増税後の四半期の経済成長率等の影響を見てからになるか、これまでの黒田総裁らの発言を踏まえると後者の可能性が高いだろう。

TPPも今年の大きなイベントとなる。米国が中間選挙の年となり、交渉参加国間のスタンスの隔たりもあって、早期の妥結は難しいと見られるが、各国とも一定の譲歩と妥協をしながら締結する方向で交渉を進めることは変わらない。域内自由貿易協定、高度に開放された統一的経済圏に加わることは、国内の政治経済体制にかなり劇的な変化を要求することになる。TPPの内容を受けて、市場から期待されている規制緩和などは徐々に現実味を帯びるだろうが、その速度は首相が高い支持率をリーダーシップに変換して与党内の反対を封じ込められるかにかかっている。

国際経済では米FRBが大規模金融緩和から少しずつ平時化を図ることになる政策転換が始まるが、金融危機以後のQEで新興国に流れ込んだマネーが逆流することによる負の影響が出てくるだろう。欧州では南欧を中心に高い失業率や需要の不足がデフレ圧力としてかかり、ドイツなどわずかな勝ち組を除けば不況の長期化が避けられず、将来にわたって競争力を失い経済が縮小しかねない。

「普通の国」化が進むも障壁は多い

NSCの創設、新たな国家安全保障戦略の策定、中期防と新防衛大綱下での変化する安全保障環境への対応、そして秘密保護法の成立と、秋冬に日本の安全保障政策は大きな転換点を迎えた。後世の日本の安全保障政策を研究する者にとって、この時期の政策は必ず注目され、東アジアの安全保障への影響、ひいてはグローバルな安全保障の観点で論じられることになるかもしれない。

2014年の最大のチャレンジは解釈改憲による集団的自衛権の解禁だ。この一点に安倍内閣の安全保障政策の評価がかかっていると言っても過言ではないが、秘密保護法の時の反発や、公明党の慎重論を受けて、早期の解釈改憲にこだわらず国民の理解を得るためにもう少し時間をかけることも考えられる。

解釈による「改憲」には必ずやメディア・スクラムによる批判が起きるだろうし、いかに中国の潜在的脅威を受けて国民の間に安全保障の強化を望む機運が拡がりつつあるとはいえ、「改憲」への抵抗は未だ大きい。逆に言えば、解釈改憲のハードルを乗り越えることができれば、具体的に日本の防衛力を強化する各施策はより円滑に運ぶことが可能となろう。

注目されるのは尖閣周辺で活発に仕掛けてくる中国の動向だが、既に習近平政権下で大国として振る舞う路線に入っており、2014年もその軌道が修正される見込みはほとんどないだろう。ADIZに続いて、東アジアで日本、ひいては米国を試す行動を選択する可能性は非常に高い。しかし現段階で不要不急の衝突を招かない程度に計算された行いをするだろう。

 

政治資本を要求する難題:原発再稼働

昨年末に仲井間沖縄県知事から辺野古移設の、行政上の手続きにおける承認を得たことで、鳩山政権時代に重しとなった普天間基地移設は少しずつ進むものと見られる。民主党前政権から直面しているもう一つの難題は原子力発電とエネルギー政策だが、経済最優先の安倍政権はいくつかの原発再稼働に踏み切るだろう。

消費税増税に燃料輸入コストの転嫁による電気代値上げが続けば、家計に出血を強いることとなり、経済全体の成長が続いても不満の声が次第に増えてくる。これは避けたいところであるし、政権としてどこかで再稼働により石油や天然ガスの輸入を減らして、貿易赤字を絞りたいところだろう。

一度野田政権の時に大飯を再稼働したこともあり、抵抗や反発はその時に比べれば小さいだろうが、それでも決定を下したときに世論は二分され、マスコミから批判を浴びるのは想像に難くない。再稼働決断の時期は夏以降が予想されるが、消費税や集団的自衛権、ほかにイレギュラーな事態(スキャンダル等)で政治資本を消耗していると、決断を先送りにするかもしれない。


続く?

1/01/2014

2014年の世界のリスクを考える(前編)

2014年、「あの戦争」からちょうど百年目となるメモリアル・イヤー。

新年一発目に、ずばり2014年の世界のリスクを考えてみる。

1. テロとの戦いinアフリカ
アルジェリア・イナメナスやケニア・ナイロビで発生したような、グローバルなテロネットワークとローカルな過激派が結びつき、欧米権益やこれと協力する統治能力の低いその国の政府に対するテロ攻勢を続ける可能性はかなり高い。アルジェリアからサヘル地帯をまたにかけて活動するAQIM(イスラム・マグレブのアルカイダ)、ソマリアから東アフリカ諸国を脅かすアル・シャバーブ、ナイジェリア北部にイスラム国家建設を目指すボコ・ハラムと、南部アフリカ以外ではイスラム勢力が伸張している。

2. 米中間選挙とオバマ政権のレームダック化
2013年はオバマにとって最悪の一年だった。しかしシェイクスピアの一節を引用するならば、今が最悪だと言えるうちはまだ最悪ではないのだ。中東で、東アジアで、地域の同盟国はリーダーシップを発揮できない米国に苛立つ機会がますます増えるかもしれない。

3. 欧州議会選挙で反EU・極右政党が台頭
フランスの国民戦線を率いるマリー・ルペン、オランダのヘールト・ウィルダース自由党党首の連携はじめ、英国独立党の躍進等、EU加盟国で、ブリュッセルで自分たちの運命が決められる(と考えている)国民の間で不満が募っている。欧州議会は5月に実施される選挙後にもっとも反EU的なメンバーで構成されることになるかもしれない。それは経済が低迷するEU圏にとっておそらくプラスには働かない。

4. 米英主導の国際部隊が撤退した後のアフガニスタンと中央アジア
ようやく米国は長い戦争を終え、兵士たちはGo Home Quickly。しかし新生アフガンの治安維持能力はとても心もとなく、米軍戦闘部隊撤退後に強力なタリバンの巻き返しを防げる術を持たない。大きな力の真空は予想外の影響を中央アジア地域にもたらすかもしれない。

5. 朝鮮半島で再燃する危機
DPRKは今年も平常運転です。だいたい、北の権力中枢が何考えているか予想しても当たらない、昨年末の汚物を消毒劇も多くのアナリストにとって予想し得なかったイベント。とりあえずリスクなのは間違いない、いつミサイル発射したり核実験行ったりして地域の緊張を高めることになっても不思議ではないのだから。

後編に続く。