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6/17/2011

Trapped Giant, Fragile Superpower

 中国経済は日本の約20年後ろを歩んできたし、そうなると近い将来に同じ過ちを犯すかもしれない。2008年の金融危機以後、一見その力強い経済成長を維持してGDPで日本を抜いた中国であるが(北京大学のMichael PettisなどはそのGDPが過大ではないかと見ている)、その先行きの不確実さを多くの論者が指摘してきた。つい先日には、Financial TimesのMartin Wolfが今の中国とバブル前後の日本を比較している記事を書いた。かねてより私は、China as No.1はJapan as No.1と同じ末路を迎えるのではないかという仮説を持ってきた。度々取り上げられている不動産バブル、他の新興国と同様上昇傾向にあるインフレ(最新の数字は5.5%、食糧価格の11.7%上昇が牽引)、米国との摩擦を引き起こしている人民元問題に、輸出主導投資ベースから国内消費促進の構造転換、と個人的にはプラザ合意、前川レポート、バブル経済といった日本の80年代後半に起こったことを彷彿とさせる。

 2013年以降に中国経済はハードランディングすると最近Mr.Doomルービニが色んなところで言っているが、Project Syndicateに寄せられた彼の論考によれば中国経済は弱い通貨と輸出主導産業に支えられ、高い家計や企業の貯蓄率と固定資本投資(Fixed investment)に結びついてきた。そして金融危機以後にリセッションを避けてきたのはただ単に固定資本投資が爆発的に増えてきたから、と彼は指摘している。ルービニが問題点にあげているのはこの過剰投資は供給過剰につながる、人のいない空港やゴーストタウンを出現させ、利益を生まない無駄な事業への資金貸し出しを増やすことになるなど。これらは将来、不動産市場の価格急落が引き起こすであろうバランスシート毀損(リチャード・クーは中国もまたバランスシート不況に陥ると見ている、'There will be blood'とは刺激的な題だ)と一緒に強力なデフレの罠となって中国経済をスローダウンさせるのではないか。

 端的にまとめても中国経済の直面する課題の多くは、極端な格差(ジニ係数は2010年時点で0.47! 最も成功した社会主義と揶揄された日本より遥かに貧富の差に開きがある)を除けば、実にかつての日本に類似していると言えそうだ。太田述正氏は「中国は自由民主主義抜きの日本型経済体制を採用している」と考えている。金融危機以後の「国進民退」、政官が間接的に影響力を行使している日本よりダイレクトにコントロールされている生産性の低い国有企業が強い経済というのは市場を歪め持続可能ではないだろう。日本と中国の違いは、後者はまだプラザ合意のような急激なレート調整を回避していることか。一方で、副産物として米国債の保有が積み上がっているのは(この米中の関係は双方にとって健全でない、解消するのが互恵的という論説があるが、これは別の話)、対外的なショックへの対応を可能としても、日本のバブル崩壊のような国内の危機に際しては助けとならない。中国が日本をモデルとして経済体制を構築してきたという説が正しければ、いやそうでなくとも、現状を打開しLost Decadeを迎えないよう教訓を得ていると考えられるかもしれない。しかし This time is different, China is different(今度は違う、中国は違う)と楽観的な見通しを私は得られない。

 中国はチェスや将棋で言うところの詰み・チェックメイトにはまったのではないか? その答えはルービニの御神託では2年後にわかってくるだろう。台頭する中国は強大化していると同時に脆弱さも増しているように見える。インフレーション対策に金融政策を引き締めれば、資産バブルが急に弾けたりしないか(Pettisはこの点、金融危機よりも数年に渡る経済のスローダウン説をとっている) 日本の二の舞になるかどうかは政治指導者にもよるところがあるが、「中国政府は有能だが、水の上を歩くことはできない。中国が今後10年間歩かなければならないのは荒れた水面だ」というマーティン・ウルフの記事の結びで指摘している。そして中国がハードランディングすることになったとき、果たして経済面での困難が政治にいかなる影響を及ぼすか。2012年に来る新しい指導層はその船出から大きな時化に備えなければならないだろう。