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6/19/2017

探り合い

 上司に先日の接触のこと、意見交換の話をしたら「気を付けてください」とだけ言われた。相手はロシアの人間だから当然だろう。この国で激しい情報戦を繰り広げるとも思わないが、隙を見せたら何があるかわかったものではない。

 レセプションで交換した相手の名刺を確認する。向こうは経済担当(エコノミック・オフィサー)と自己紹介していたが、こちらが地域情勢をフォローしているという話に、自分も一部カバーしていると応じていた。

 この国のロシア大使館で何人勤務しているかは承知していないが、大きな大使館だったし、レセプションを見た限りではこちらより人員は多そうだった。人手不足の大使館なら経済と政治を兼務していてもおかしくないが、ロシアの規模であれは普通はそのような体制を取らないだろう。

 当日。朝のデスクワークに一区切りをつけたところで、ネクタイを締め、メモ帳とペンだけを持って出る。移動中、どう躱すか、相手の関心事は何かに考えを巡らす。

 約束の時間の数分前に先方の指定したホテルに到着した。近いからいいかと思って受け入れたが、利用したことのないホテルだ。欧米系の大きなホテル以外でのアポはあまりないが、思ったよりはきれいでしっかりしていた。

 入口の金属探知機をパスしてロビーを奥に進む。先に到着してコーヒーを飲んでいた相手が立ち上がり、こちらに手を振った。

 形式的な挨拶を交わし、互いに席を着く。飲み物を進められたので、ウェイターを呼び、コーヒーを注文した。運ばれてきたコーヒーに一口つけると、いたって普通の味がした。本題に入る前に一言言わなくては。

「申し訳ないが急ぎの会合が入ったので30分したら行かなきゃいけない」 

 これは、嘘。話が盛り上がってもつまらなくても、だらだら続ければそれだけリスクが増す。それに、このところ地味に仕事が忙しかった。本来必要のないアポで時間を浪費している余裕はなかった。

 相手は、別に驚いた風もなく、わかったと話を切り出す。電話口では地域情勢について、としか聞いておらず、こちらも敢えて前もって余計な情報を入れないよう、尋ねなかった。何が出るかな、さいころ振ってのお楽しみ。

 最初に尋ねてきたのは某国情勢についてだった。率直に言って意外だった。ロシアが深い関心を有しているというイメージはなかったし、我が国が重要なプレーヤーとして振る舞っているわけでもない。先ずは無難な話をして、警戒を解こうというところか。

 意見交換ということで見方を「私見だが、一般論だが、」と断った上で、頭の中で情報をフィルタリングして公知の情報を基に話すように努める。この作業は何とか上手くいった。相手は淡々とこちらの話を聞いては次の質問を投げてくる。

 はっきり言ってそう刺激的ではない、固い応答ライン。この国の政府当局者がこちらの照会に応答するときを思い出す。我ながらお利口さんな答えばかり、サービス精神には欠けるが、「こいつはわかっている」とある程度中身を知っているところは示さなければならない。

 今後の見通し、キープレイヤーの戦略に対する評価、話は米国の某国に対する関与に及ぶ。ロシアとしてはやはり米国の動向は関心事か、日本から何か聞けると思ったのか。

 何が相手にとって既知で何が未知か、欲しいのは情報か、それともこちらの分析評価、あるいはその能力を探っているのか。話ながら思案する。向こうは向こうで、こちらの話に耳を傾けつつ探っているような気がした。

 合間に口の中を湿すためにコーヒーを啜る。ガードを下げないよう気を付けているが、個人的に関心があってフォローしているテーマだと、やや饒舌になりがちだ。

 時計の針に目をやりたいのをぐっと堪える。短すぎず長すぎず、適当なところで切り上げたいが、まだ早い。

6/18/2017

接触

 最近あった経験の備忘録。

 日曜午後、仕事の携帯に見知らぬ番号からの着信。また、現地の人間が間違い電話か(この国ではよくある)と思って出てみると、電話の相手が無感情な声で英語で喋りはじめた。

「君とこの国の内政、地域情勢の意見交換をしたい。今度会えるか?」

 相手の名前は、つい先日参加したレセプションで名刺交換したロシア大使館の経済担当書記官のものだった。その時は自分がロシア語を勉強したことや、モスクワに旅行したことを話題に会話を弾ませようと試み、何とも読み取り辛い相手の関心を惹こうとしたものだ。

 いつが空いている? この日の午前なら。では〇〇ホテルで会おう、君のオフィスから近い。

 アポが成立し、電話を切る。向こうがどういう気持ちかはわからないが、きっと表情は変わっていないだろう。こっちは、あちらからの接触に予想通りという満足感と、用心してかからなければならないという緊張感が入り混じっていた。

6/26/2016

「Brexitの決定:英国はEUの新たな最良の友人になる必要がある」byマルコム・チャルマーズ【前半】

 英国民投票の「離脱」という結果を受けて、マルコム・チャルマーズ(Prof. Malcolm Chalmers)RUSI副所長が、RUSIウェブサイト上に「Brexitの決定:英国はEUの新たな最良の友人になる必要がある(Brexit Decision: The UK Needs to Become the EU's New Best Friend)」というコメンタリーを寄稿していたのを紹介したいと思います。

構成は(1)序文、(2)政治、(3)経済、(4)新たな特別な関係構築、(5)欧州へのピボットとなっており、それなりに長いので(3)までを前半として、概要抄訳を紹介します。

(1)序文

1.英国民投票でEU離脱の意思が示された今、欧州との新たな協力モデルを作ることが、英国にとって戦略的政策の最優先課題だ。

2.NATOとEUを通じた国家間協力の制度機構化は、第二次世界大戦以来の大陸の安全保障を支える上で重要な役割を果たし、共通の課題に対処し競争的ナショナリズムを抑え込むことを可能としてきた。

3.欧州協力論は変わらず力強いが、制度機構の形は、新たな課題と新たな政治的現実に対応する上で変化する。英国と欧州のパートナーが直面する課題は、差し迫る英国のEU離脱を前にして、新たな協力の枠組みをどのように形成するかについて合意することだ。合意に至るのは容易ではないが、失敗のコストは、英国と欧州のパートナーにとって、高くつくだろう。

(2)政治

4. 英国は今EU離脱の道にあるが、目的地は不確実性に覆われている。先ず、国民的議論の中心は誰が次の首相になるかになるだろう。しかし、この議論はまた、政党間、ビジネス界そして一般社会での激しい議論と分断につながりそうである。欧州はこれからしばらくの間、英国の政治論議の中心になりそうに見える。この議論の主要な問いは、欧州との望ましい関係の性質についてになるだろう。

(3)経済

5.英国は、EUから流入する移民のコントロールを導入し、現在EUが握る市場規制を取り戻し、WTOのメンバーシップに基づいた貿易協定の交渉に向け速やかに動くことになる。

6.そのような政策の経済コストが、多くの予測者たちが現在予見しているぐらい大きいものと証明された場合、よりノルウェーとEUの協定に類似し、英国の規模と重要性を考慮にいれて修正された、新たな「特別な関係」を支持するよう政治指導者にますます圧力がかかるだろう。

7. そのような協定下で、英国は移動の自由継続とかなりの予算貢献の受け入れと引き換えに、EU市場への特権的アクセスを保つことになる。

8.多くの離脱支持者はそのような選択肢に猛烈に抵抗しそうであるが、国民投票後の急な景気後退という起こりそうな現実と、歳出削減と(または)増税の見通しが、どうであれ、より過激な離脱の選択肢の利点を説くことは難しくなる。景気後退は移民を減らし、移動の自由に関して変化の余地をもたらしそうである。

9.「特別な関係」オプションの包括的な原則は、英国は、いくつかの領域で現在加盟国として行っているよりも多くの国家的支配を行使し、しかし適切なところで多国間協力の利点を維持する、EUとの強い制度化されたパートナーシップを保つことを模索することである。このモデル上、英国はEUの最良の友人になりたいと熱望する。

10.他の欧州の指導者は、英国が完全に縁を切るのと新たな形態の密接な協力に動くことのどちらが好ましいかを独自に評価するだろう。彼らは強い国内の圧力、特にビジネス部門からの、英国との貿易コストの急激な増加を回避する協定に合意することを求める圧力に直面しそうである。

11.しかし欧州の政治指導者は、自国の欧州会議的な政敵が魅力的と思う前例を与えないよう、易々と英国を受け入れることに慎重になるだろう。

12.つらい景気後退が、難しい譲歩を受け入れるための英国への圧力を増やし、他方で英国の後を追おうとする他国を思いとどまらせるのに十分な痛みを負わせ、助けとなるだろう。
(4)と(5)は【後半】に続きます。

9/20/2015

シリアの現状、不介入政策の帰結

欧州の難民問題がここのところ話題になっています。泥沼の内戦にISの脅威に晒されているシリアや、シリアに比べればはるかにマシだけれども情勢不安定で過激派も入り込んでいるリビア、北朝鮮以上に自由のないアフリカのエリトリア、そのほかナイジェリアや、果てはアフガニスタンから、大勢の難民がドイツや北欧などを目指しています。

シリアでは、2011年の紛争勃発以来、20万人以上が死亡し、400万人を超える人が国外に逃れて難民となり、また国内避難民も相当数発生しています。昨日、ヨーロッパを訪問中の米国のケリー国務長官は、難民問題の深刻化を受けて、紛争を終わらせるための新たな外交努力を呼びかけました(BBC当該記事)。


反政府派の拷問、女性に対する暴行、市民への空爆、大量の殺戮、化学兵器の使用、ISの台頭。今日まで続き、なお好転の見込みが薄い惨状に、「早期に人道的介入をしていれば、あるいは阻止できたのでは」と考えさせられるところです。

(以下は過去にシリアに触れたものです)
「そう、シリアはリビアより難しく、ダルフールより酷くない。」(2011年11月30日)

「シリアに直ちに介入することが好ましくない8つの理由」(2013年8月29日)

「オバマのDo the stupid stuff」(2014年10月11日)

(↑のうち最後のエントリーについては、今月16日にロイド・オースティン司令官が上院軍事員会の公聴会で証言したところ、米軍が訓練したシリア反体制派のうち、対IS戦に従事しているのが4、5人だそうです。空爆についても、8月26日付けのNYTの報道によると、米中央軍が情勢分析の方古書で歪曲を行ったと指摘がなされており、米軍の対IS戦略が機能していないものと見られます。)

過去に、自分なりに情勢を分析した上で不介入を是としましたが、冒頭で挙げた死者数・難民数を見ると自問自答せずにはいられません。「これでよかったのか」と。これでいいわけがないのですが。各国の首脳や政策当局者が、当時介入しなかったのにはそれ相応の政治的、外交的、戦略的、あるいは法的な理由がありましたが、行動しなかった結果について重く受け止めなければならないでしょう。

今日のシリアはアサド政権、反体制派、IS、アルカイダ系のヌスラ戦線など諸勢力が入り乱れ、また外部の勢力もトルコ、ヨルダン、湾岸諸国、そしてイランが複雑に絡んでおり、一種のグレートゲームが展開されている状態です。また、アサド政権を後援するロシアと米国の利害の不一致もあり、「大国政治の悲劇」の犠牲でもあります。ある反アサド派で現在米国ワシントンD.Cに住んでいるシリア人によれば、オバマ大統領はこの問題で「イラン人に心配をかけることを望んでいない"President Obama does not wish to upset the Iranians"」というスタンスだったそうです。この男性は「オバマが外交を通じて平和の遺産を残したいことは理解できるけど、なぜ彼が独裁者との取引が平和をもたらsと信じているのか理解できない」と述べています。

シリア情勢を見ていると、冷酷な国際政治の現実と、理想の狭間で葛藤を覚えずにはいられません。

9/19/2015

集団的自衛権~通過点として

平和安全法制整備法案と国際平和支援法案が成立し、日本は限定的な集団的自衛権の行使が可能となりました。

5年前、私は戦争学を学ぶために大学院留学しました。その時はいつか日本が現実的な安全保障政策を持ち、多国間協調で国際平和により一層貢献するようになる日が来るだろうと思い、その日のために国際情勢を理解し安全保障に精通することが肝要だと考えていました。

4年前の秋、修士課程を終え論文を提出し終え、外務省から留学していたコースメイトとウクライナ、トルコ、ブルガリアの3か国を卒業旅行していたとき、イスタンブールからソフィアに向かう列車の客室内で、彼と日本のこれから、外交や安全保障について議論しました。その中には集団的自衛権も含まれていて、「首相の政治的決断で解釈を変更してやれるのだから、やるべきだ」という旨熱く語っていた覚えがあります。

正直なところ、かくも早く集団的自衛権の行使が可能になるとは予想していませんでした。英国で修行している時には10年以上かかるものと覚悟していました。数年前の自分であればもっと高揚していたのではないかと思いますが、今日という日を迎えてもこみ上げるものがないです。理由は色々考えられるのですが、最も大きいのはここが終着点ではないということでしょうか。

この数か月の議論の在り方は予想していたとおりで噛み合わず、少しでも政策論、安全保障の実りある議論が深まればよいという淡い望みは望みのままでした。戦後70年間にわたって軍事を忌避し放擲してきた日本の社会にあって、安全保障を正面から議論する知的基盤が存在せず、加えて安全保障への関心は経済や社会保障といった身近な問題と比較して圧倒的に低いことから、広範な理解を得るのが難しいのはやむを得ないものと認識しています。一方で、安全保障の世界にいる者として、様々なケースや欧米の研究などを紹介して少しでも参考にしてもらうという努力をしてこなかったのは怠慢だと反省しています。

今回の政府憲法解釈の変更、提出された法案は率直に申し上げると中途半端で、不完全な形のものだったと思います。しかし、集団的自衛権を行使可能とすることは国際社会において責任ある国家として行動する大前提で、また個別的・集団的を問わず自衛権は国際法上当然認められる国家の権利でありかつ国内法の制約に反しないものという考えから、成立を支持します。

メディアでは今回の政策変更を「大転換」「転換点」と表現する向きが多いです。確かに法案を巡る政治闘争が熱を帯び、政治的にはとても象徴的な法案であったでしょう。しかし、集団的自衛権を巡る課題と議論は新しいものではなく、湾岸戦争のトラウマ、PKO協力法成立と自衛隊の海外派遣、周辺事態法の制定、9.11同時多発テロとその後のインド洋・イラク派遣と、過去20余年の積み上げの延長線上にあるものでした。また、政治的なインパクトと裏腹に、例えば武力行使との一体化は従来通り避けるなど、法案による変化は騒ぎの大きさに比べると穏健なものでした。ただ、小さくても一歩は一歩であり、非常に重みのあるものでしょう。

集団的自衛権が限定的に解禁されたのは一つの通過点です。今回、安保法制が整備されたからといって、日本の安全保障や地域の安定が完璧になるものではありませんから、これからも恒久的な平和がより恒久平和に近づくよう、不断の努力が求められているのだと思います。2法案の成立はゴールではなく、集団的自衛権の行使という選択肢が増えた日本政府・国民双方にとって、これからがより重い選択を迫られより重い責任を負うことになります。海外での任務が増える可能性が以前より高くなった今、日本の安全保障政策や自衛隊はよりスタンダード化する必要性があり、そのための様々な法律と能力の整備が求められます。

集団的自衛権が行使可能となることで、政府が主張するように日本の安全保障にも資するでしょうし、同盟の双務化で日米関係が強化されるでしょうが、それだけに留まらない可能性が拡がると考えています。米軍以外との協力の余地が拡大することで、他の友好国との安全保障協力が発展していくことが期待されますし、日米同盟とANZUSやNATOのネットワークとを統合していく向きが出てきても不思議ではないと思います。このほか、同盟の双務化は沖縄ほかの駐留米軍のイシューにも長期的に影響を及ぼすのではないかと考えています。(詳しくは割愛します)

個人的には、将来スレブレニツァやダルフール、アレッポ、ホムスで起きたことを未然に防ぐ機会があるとき、日本が傍観せず行動できる国際コミュニティの一員であってほしいと強く願っています。22万人以上が死亡し、400万人以上が国外へ逃れて難民となったシリアを見れば、やや理想主義が強いことは否定できませんが。今の首相や政府の方針とは異にしますが、国際協調のもとで保護する責任(responsibility to protect)を果たし、人道的介入を行えるようにするのが積極的平和主義の一つの形であり、そのために集団的自衛権が不可欠だと愚考します。日本のケーパビリティーとキャパシティを踏まえた上で、可能な範囲で惨禍の拡大を食い止めることができれば、紛争の犠牲者を少なくすることができます。

いずれにしても安保法制は数多くある通過点の一つであり、ここがはじまりです。日本をしてforce for goodとする。この国の舵取りを過たすことなく、少しでも安全で少しでも良い世界にしていく。及ばずながら、私個人としてもその為にできることをしていく所存です。



8/19/2015

約1か月ぶりに安保法制をフォローする~PKO協力法編

 1か月以上間が空いてしまいましたが、今日から再開です。

 ちょうど国会審議で、駆けつけ警護に関する統合幕僚監部の内部資料が話題となっていますが、今日は国際平和協力法(PKO協力法)の改正についてフォローしていきたいと思います。

 PKO協力法の改正では、PKOに参加する自衛隊が実施できる業務の拡大と、非国連型(国連が統括しない)「国際連携平和安全活動」の新設の2つが大きな柱です。

 PKO業務は、従来、停戦監視や被災者支援を行ってきましたが、これに加えて安全確保、そして「駆けつけ警護」が業務に加えられることになります。

 「駆けつけ警護」について簡単に説明しますと、他国軍部隊や住民、NGO等民間人に対する武力攻撃が発生した際に、自衛隊が救援に当たるというものです。
 
 この「駆けつけ警護」や安全確保業務を可能とするにあたって武器使用基準で「任務遂行のための武器使用」を認めることとなります。

 これまでは「自己保存型」、つまり部隊・隊員の自衛に際してのみ武器使用が認められていましたが、救援という任務のための武器使用、場合によっては襲撃している武装勢力等に対する発砲等が可能となります。

  日本のPKO参加5原則(後述)では紛争当事者間の停戦合意がPKO参加の前提となっており、自衛隊や他国軍が派遣されるのは現に戦闘が発生していない地域ですが、政情の急変、紛争の再燃という緊急事態が発生した場合、自己保存はもちろんですが、紛争で危害が及びかねない住民等の保護が求められる場合があります。
 
 次に「国際連携平和活動」です。PKO、平和維持活動はその多くが国連の統括の下に実施されていますが、国連以外の主体、例えば地域機構が、平和維持活動を実施しているケースがあります。

 具体的にはソマリアでアフリカ連合(AU)が行っている「ソマリア平和維持活動(AMISOM)」が挙げられます。また、現在では国連PKOに移行していますが、西アフリカのマリ北部を過激派武装勢力が勢力を拡大した当初は、ナイジェリア等西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)によって編成されたアフリカ主導の軍事ミッション(AFISMA)が展開して事態に対応しました。

 このように、国連以外の枠組みでの平和維持活動、国際連携活動が行われるようになっており、それに日本も参加できるようにするというのが法改正のもう1つの目的です。

 ただし、なんでも「国際連携平和活動」ということで自衛隊を派遣できるわけでは、当然ありません。

 先ず、日本にはPKO参加5原則があります。

① 紛争当事者の間で停戦の合意が成立している
② 国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者による我が国の参加への同意
③ 国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的な立場
④ 上記原則が満たされない状況が生じた場合、我が国の部隊が撤収できる
⑤ 武器使用は要員の生命等の防護のための必要最小限のものを基本とする

 これに加えて、「国際連携平和活動」参加のための要件が設けられています。

 簡単に並べると国連の決議、国連機関もしくはEU等地域機構の要請、そして平和維持活動が行われる国の要請がありかつ国連主要機関の支持があることです。

 PKO、またはこれに類する平和維持活動そのものは、「国際平和協力」であり国家として自衛権発動には当たらないですし、国連PKOはもちろんのこと、「国際連携平和活動」も国連決議等、国際法上合法、禁止されている戦争にはあたらないと理解されます。

 我が国においては派遣された自衛隊部隊が部隊・要員の自衛(正当防衛・緊急避難)においてこれまで武器使用を認めてきましたが、今後は業務の拡大に伴い、活動地域の治安が悪化した際にも武器使用が求められ、認められるケースが出てきます。

 国家としての集団的自衛権の発動(密接な関係にある国Aが攻撃を受けた場合に日本が共同対処する)ではありませんが、部隊レベルの集団的自衛権の発動(他国軍、住民、国連職員、NGO等民間人が危機にある際に派遣部隊が対処する)と言えるでしょう。

 PKO協力法関係は以上です。次ですが、「重要影響事態」に関する2つの法律、周辺事態安全確保法改め「重要影響事態安全確保法」と「船舶検査活動法」改正について見ていきます。



7/20/2015

平和安全法制整備法で改正される法律を今更ながら見ていく~自衛隊法編

平和安全法制整備法と国際平和支援法は衆議院を通過し、参議院に送られましたが、10本の法律をまとめて改正する(+附則によりさらに10本の関連法の技術的な改正を行う)前者は複雑です。

なので1本1本、今回の法改正で何がどう変わるのかを見ていきたいと思います。

本日は「自衛隊の任務、自衛隊の部隊の組織及び編成、自衛隊の行動及び権限、隊員の身分取扱等を定める」(隊法1条)、自衛隊法の改正について見ていきます。

今回の主な改正事項は

① 在外邦人等の保護措置 (新設、第84条の3、第94条の5)
② 米軍等の部隊の武器等の防護 (新設、第95条の2)
③  平時における米軍に対する物品役務の提供の拡充 (第100条の6)
④ 国外犯処罰規定の整備 (第122条の2)

です。これらは概ね集団的自衛権とは関係ない項目です。

集団的自衛権(存立危機事態)に関係する部分は後述します。

①「在外邦人等の保護措置」は

1)外国における緊急事態発生時に、
2)当該外国の当局が治安維持にあたっており、かつ、戦闘行為の可能性がない場合
3)当該外国の同意を得て、
4)邦人等の警護、救出、輸送その他の措置を自衛隊ができるようになります。

武器使用については正当防衛・緊急避難の場合に許容されます。

これは集団的自衛権の行使とは直接関係ない事項ですね。おそらくは中東や北アフリカ(アルジェリアやチュニジア)で相次いだ過激派組織による邦人テロ被害を受けて議論してきたものを、今回の法改正に盛り込んだのだと思います。

②「米軍等の部隊の武器等の防護」は、

1)共同訓練をはじめとする自衛隊と連携して日本の防衛に資する活動(現に戦闘行為が発生している現場で行われるものを除く)をしている米軍やほかの国の軍隊の武器等を、
2)米軍やその他の軍隊から要請があり、
3)防衛大臣が必要と認めた時に、
4)自衛隊が防護でき、
5)正当防衛・緊急避難に当てはまる場合には武器の使用も認められます。

表現がややこしいですが、1)の「自衛隊と連携して日本の防衛に資する活動(現に戦闘行為が発生している現場で行われるものを除く)」と5)の武器使用権限から、これも集団的自衛権の行使と関係ないものと判断されます。


③「平時における米軍に対する物品役務の提供の拡充」は、簡単に言えば「自衛隊の部隊と一緒の現場で活動する」米軍を新たに対象とします。具体的には次のシチュエーションで一緒に行動する米軍部隊が支援対象に追加されます。

1) 自衛隊施設や駐留米軍施設に対する破壊(テロ)のおそれがあるときの警護出動
2) 海賊対処行動
3) 弾道ミサイル破壊措置をとるために必要な行動
4) 機雷ほか爆発性の危険物の除去処理
5) 在外邦人等の保護措置
6) 船舶または航空機による情報収集・偵察活動

また、これらの活動に際して弾薬の提供が可能になります。そのほか、米軍施設に一時的に滞在する自衛隊と一緒にいる米軍が、自衛隊施設に一時的に滞在している米軍と同様に物品役務提供の対象となります。

ここで言う物品・役務ですが、「(武器をのぞく)補給、輸送、修理及び整備、医療、通信、空港及び港湾業務、基地業務、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務、建設」を指します。


④「国外犯処罰規定の整備」では、

1) 上官の職務上の命令に対する多数共同しての反抗および部隊の不法指揮
2) 防衛出動命令を受けたものによる上官命令反抗・不服従等

が、日本国外においても国内同様罰せられるようになります。既存の条文の適用拡大です。

長くなりましたが最後に「存立危機事態」、本筋である集団的自衛権の行使に関係する改正です。

第76条の2が新設され、存立危機事態(我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態)にも、日本に対する武力攻撃が発生した際、すなはち個別的自衛権を行使する場合と同じく、「防衛出動」ができるようにするものです。

防衛出動にあたっては、「原則、事前の国会承認が必要」となります。例外として緊急で事前承認を得る余裕がない場合は事後承認となっていますが、これは従来の個別的自衛権に基づく防衛出動と同じ扱いです。

さて、ここまで自衛隊法の改正案について大まかに見てきましたが、集団的自衛権と関係しない項目もあり、要領を得ないところが多いと思います。

実はこれ以外にも、存立危機事態、重要影響事態に関係する事態対処法制や、PKO協力法の改正、国際平和支援法の新設を受けて条文が追加されたり変更されている箇所があり、そちらも参照しないと全貌を把握できないものとなっています。

(なので、最初に基本である自衛隊法改正を取り上げましたが、他の法律の改正について巡った後、もう1度カバーいたします)

最初に「複雑です」と記しましたが、これを広く国民に理解してもらうというのは極めて困難な作業です。

次回は国際平和協力法(PKO協力法)の改正箇所を見ていきます。