ページ

このブログを検索

ラベル China の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル China の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

4/20/2013

中国国防白書2013と「核の先制不使用」政策

中国外務省の軍縮局長がジュネーブで「日本に対して核兵器は絶対に使わない」と発言したと、時事通信(2013年4月20日アクセス)などが報じました。また読売の記事(同日アクセス)では「中国は非核兵器国への核兵器不使用を明確にしている」と記者会見で話したとされます。

中国が核兵器を先制使用しないというのは過去の国防白書などでも次のとおり明示されてきました。
中国は国連安全保障理事会の常任理事国と『核兵器不拡散条約(NPT)』を締結する核兵器国として、いついかなる時も、核軍縮の義務を回避することなく、公開、透明、責任を負う核政策を実行している。中国は一貫して、いかなる時、いかなる情況の下でも、先に核兵器を使用しないという政策を厳守し、非核兵器保有国と非核地帯に対しては、無条件で核兵器を使用しないか、または核兵器の使用をもって威嚇しないことを明確に約束した。2010年度「中国の国防」白書和訳
しかし4月16日に公表された最新の国防白書 (英語版日本語訳)においては、中国の過去の戦略文書において重要な礎石であった、はっきりとした「核兵器の先制不使用」に関わる記述が抜けおちています。

2010年の「中国の国防」では「十、軍備抑制と軍縮」という項目があり、ここに前述の核兵器の先制不使用について書かれていましたが、今回の白書では項目は5つに減らされ、軍縮に

先ずは英語版で関係する箇所を抜粋して見てみましょう。

If China comes under a nuclear threat, the nuclear missile force will act upon the orders of the CMC, go into a higher level of readiness, and get ready for a nuclear counterattack to deter the enemy from using nuclear weapons against China. If China comes under a nuclear attack, the nuclear missile force of the PLASAF will use nuclear missiles to launch a resolute counterattack either independently or together with the nuclear forces of other services.
当該箇所の日本語文は次のとおり。国が核の脅威を受けた際は、核ミサイル部隊は中央軍事委員会の命令によって、警戒レベルを高め、核による反撃の準備を整え、敵を威嚇し中国に対する核兵器の使用を抑止する。国が核攻撃を受けたときは、ミサイル核兵器を使用し、単独あるいは他の軍種の核戦力と共同して、敵に対し断固たる反撃を加える。 核兵器で攻撃を受けた際には中国も核兵器を使用して反撃する。このことについての記述のみ残っています。

中国は1998年から国防白書を出しており、今回が8度目になるのですが、過去の文書では必ず「核兵器の先制不使用」についてはっきりと言及していました。

この変化は重要です。また、何を書いているかと同様に何が書かれていないかも中国の政策を理解する上で鍵となるでしょう。

カーネギー国際平和財団のジェイムズ・アクトン氏が19日のNYTでこの点に着目するとともに、習近平国家主席が、核兵器を先制使用しないという約束を演説に入れていなかった(In the speech, Mr. Xi did not repeat China’s no-first-use promise.)ことから、中国の核ドクトリンが"China might use its nuclear weapons first"へとシフトしている可能性を指摘しています。

米中間で核について、高いレベルで継続的に協議・軍事対話を行なう必要があるとアクトンをはじめとして考えている安全保障専門家は多いのですが、どうも中国側が抵抗を示しているようです。

冒頭の中国の軍縮局長の発言は、特定の国(日本)に触れた点で異例とのことですが、「非核兵器国への核兵器不使用を明確」にした一方で核の先制使用について明確に否定しなかった、もっと言えば米国に対して核兵器を先に使用する可能性があるという含みがある点で疑心暗鬼にさせる発言でもあるでしょう。

そもそもこのような発言が出たのは、先の国防白書「中国の戦力の多様な運用」を受けて記者が質問したからではないかと推測しますが。。。

4/19/2012

It's the Security, Stupid!~β版no.1

今度から定期的に国際安全保障・防衛・戦略の最新情勢や各国の興味深い動向を紹介し、時に分析を加えたり戦略的含蓄に富む話をしたりするシリーズを「It's the Security, Stupid! 安全保障なんだよバーカ」と題して始めたいな~と考えています。

訪米時の石原発言で都による尖閣購入意向のニュースが一昨日駆け巡って来耳目を集めていますが、話題になってももっと広い戦略的文脈に置いて議論されるべきこと(日本は中国をどうしたいのか、尖閣等々が引火点flashpointとして最悪の事態が起きたときにどう動くのか)がされずに終わるであろうことが目に見えており非常に懸念されるところです。

さてβ版の第一号は時事ネタ、特に中国関連をカヴァーしていきたいと思います。

本日最初に取り上げるのはインドの弾道ミサイルAgni-Vの発射実験です。成功したとのことですが、これでインドは約5,000kmと中国の主要都市や東欧を射程に収める核弾頭搭載可能なミサイルを持つという大きなハードルを技術的にはほぼ越えました。インドは2007年4月に射程距離3500kmのAgni-Ⅲの打ち上げに初めて成功しましたが、この5年間に着実に能力を向上させてきたことになります。このミサイルは厳密な定義上はICBM大陸間弾道弾ではありません、ICBMのレンジは5,500km以上になりますので。とはいえICBMを保有しているのは米国、中国、ロシア、英国、フランスのみであり(land-based)となると米中露だけになります。今回の実験成功は特権的な「エリートクラブ」への仲間入りの足掛かりになり、インドの自信とプライドを高めるでしょう。今後は来年に似たような実験をして2014年か15年に運用可能になることが予想されています。





2番目に取り上げるのは南シナ海関連です。

China and Phillipines Navy, The Diplomat, by David Axe

10日にフィリピンと中国が南シナ海のScarborough Shoalで睨み合う事件がありましたが、海軍近代化を推し進めて軍備増強されているPLANに直面するフィリピン海軍は十分な予算が与えられず、その装備は非常に貧弱です。今回中国漁船・漁師を逮捕しようとして2隻の中国艦船に妨害されたグレゴリオ・デル・ピラー(Gregorio Del Pilar)は、米沿岸警備隊で1967年に就役したハミルトン級の艦船で、昨年引き渡された際には武装の多くが外されています。しかしこのクラス(3200㌧)でもフィリピン海軍が保有している船では最大なのです。近いうちにマニラで海軍が最大限イニシアティブをとって購入できそうなのも、やはりグレゴリオ~同様に軽武装されたハミルトン級で、両国間の大きなパワーバランスを埋めるのは非常に厳しい模様です。

3つ目に取り上げるのは中国の北極海へのアプローチについてです。16日付のワシントン・ポスト紙が報じたところ、中国は北極評議会(Arctic Council)のオブザーバー入りを目指しスウェーデンの支持を得たと外務当局者が明らかにしました。(北極評議会の加盟国は8カ国、米国、カナダ、ロシア、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、アイスランドです) また米海軍大のEricksonらの分析ではデンマークも中国との経済関係強化を優先しており資源豊かな、また新航路が地政学的に大きな影響力を及ぼすであろう北極海において中国のプレゼンス拡大を認めることになろうとのことです。

最後に注目のニュースは、先般北朝鮮の失敗したミサイルに中国のテクノロジーが使用されていた、あらゆる武器や関連した部品材料、金融取引、技術指導等を禁止した国連決議1874号に違反していたのではないかという疑惑です。Financial Timesの記事によれば、国連安保理にアドバイスする専門家委員会が北のミサイルの運搬装置の画像映像を調査しているとのこと。過去のパレード映像やインテリジェンスでイランの技術が転用されていたことは知られていましたが、中国のそれが取り沙汰されたのは今回が初めてです。もし事実と確認されたなら今後の六者協議やワシントン、東京、ソウルとの関係を変えることになるでしょう。もっとも、北朝鮮に技術供与などが為されたのが制裁が効力を持ち始めた2006年以降であることが証明されなければ、残念ながら国連安保理決議違反と断定はできないようです。

11/20/2011

南シナ海が問いかけるのは



この1年とちょっとの中国外交は「らしくない」ところが続いている。ホノルルに引き続きバリでも北京はワシントンと、そしてこれに寄り添う東京に面白くない思いをさせられただろう。温家宝首相はEAS(東アジアサミット)の前日に改めて従来の主張を繰り返して牽制した。曰く、「部外者は介入するな、当事者だけで解決する」。これは昨年のハノイ、ARF(ASEAN地域フォーラム)においての楊潔篪外相の、ヒラリー・クリントン国務長官の「航行の自由」、アジアの海洋コモンズ(公共財)への自由なアクセスと国際法の尊重を求める、これまでにないはっきりとしたステートメントへの反論の繰り返しだ。一方、この日出された日・ASEAN共同宣言では昨年のヒラリーの主張をなぞるかのように海上の安全保障に関する文言が盛り込まれた。

南シナ海は'assertive diplomacy'を続ける中国と、周辺諸国そして米国の間で最も熱いflashpoint(引火点)になっている。歴史的にはパラセル・スプラトリー諸島などを巡った領土問題が横たわり、これに天然ガス・石油といった資源が絡んでくる。またこの海域は世界経済の中心になりつつあるアジア経済と貿易、それから日本や中国のような東アジアの国々にとってはエネルギー安全保障の観点からも戦略的にとても重要だ。これら多くの要素はどれも単体で摩擦と紛争の種になり得るが、この海域が明らかにしているのは米中間のperception gap、認識の開きだ。

米国そして日本の論法では、課題はトランスナショナルな海洋安全保障であり多国間の枠組みで話しあうのがいいと考えている。一方、中国は当事国間の直接で解決されるべき領土・主権マターであるという。双方の思惑で、実のところ議論の対象がズレている。加えてその主権マターとなる島々の領有権、そして領海とEEZに関する中国の理解はやはり「独特」だ。

中国の南シナ海における主張、そのU字型の排他的経済水域(EEZ)は他国のEEZを飲み込む極めて広範囲なものだ(図参照)。これは南シナ海の中国の島々(と中国は主張している)からの延長大陸棚をベースラインにしている。しかし英シンクタンクRUSIのJohn Hemmingsによれば、これはarchipelagic state、群島国家に認められるルールであり、中国に適用するのは無理がある。また無害な(innocent)船舶の航行で予め領海を得ようとする中国の要求は、UNCLOS(海洋法に関する国際連合条約)やいかなる国際法にも支持されない。EEZの通過はUNCLOSの87条で保証されている。

今回のEAS、そして南シナ海についての議論で中国に対してより根源的な問いが投げかけられている。それは中国がどのような大国になるか、だ。長年の高度経済成長と不透明さがあいまって警戒を呼ぶ急速な軍事力増強、その結果近年見られるような過去の「平和的台頭」をうたった魅了的外交とは異なる、好戦的で自己主張的な外交はこれからも続くのか、一時的な逸脱なのか。ゼーリックの言う「責任ある大国」としてリベラルな国際秩序、それはルールつまり国際法に従ってやっていくものだ、の一員として振る舞うことに長期的な国益を見いだせるのか。

既に中国のいくつかの国内外の要因によって生じた不器用な外交は、北京の外交官たちにとって好ましくない戦略環境を作りつつある。昨年9月に尖閣諸島問題でぶつかった日本は、野田政権下で明確に古き同盟国米国と足並みを揃えて、経済貿易面のTPPに続いて中国にチャレンジしてきている。フィリピンはこのEASの準備段階で外交ハブとして、9月にマニラにASEANの、海洋安全保障やその法的枠組みに関して専門家を集めた。かつて中越戦争を繰り広げたベトナムはもっとも挑戦的だ。8月にはカムラン湾に米海軍の船がこの30年とちょっとで初めて寄港した。9月にはペトロベトナムがインドの国営公社と南シナ海の資源開発で手を組むと報じられた。(ペトロベトナムはロシアのガズプロムもビジネスパートナーとして引き込んでいる)。軍事的には2009年に6隻のキロ級潜水艦を買う契約に調印しており、巧みに中国の台頭を懸念する大国を引きこんで対中バランシング外交を展開している。

北京は米国が中心になって自国に対する包囲網が形成されている脅威を感じるかもしれない。しかしこれまでの中国の動きを振り返れば、諸国がリスクヘッジに動くのも理解できる。2009年3月に米海軍の海洋調査船Impeccableが5隻の中国船に海南島(中国海軍の潜水艦基地があるところだ)から75海里の公海で嫌がらせを受けたのは耳目を集めたし、今年3月には中国のエネルギー調査船の嫌がらせに対してフィリピン政府は軍艦を派遣して応じた。このような揉め事がいずれエスカレートすること、中国が「砲艦外交」を21世紀の南シナ海で行うことへの警戒心は簡単には拭えない。

しかし中国が2002年のCode of Conductの合意、係争を平和的に処理することを受け入れたラインに戻るのは簡単ではない。中国外交の「変調」は、地域のバランスオブパワーの変化もさることながら、国内の勢力争い的な面も反映していると考えられるからだ。英IISSのSarah Raineの見方はこの点を補強するだろう。大まかに分類すると、屈辱の歴史の後に大国となった中国が弱い周辺国に国益を損ねられてたまるかというPLAや資源ナショナリストら強硬なグループが片方にいて、もう片方に鄧小平の薫陶に忠実に権利主張を棚上げして発展を優先したい、主に外務省と商務省が中心の、やや穏健な集団がいる。両者の違いは目的ではなく手段にある。前者は軍事力行使も辞さない、恫喝を選択肢に入れるが、よりリベラルな後者はそれが長期的な国益を損ねるのでもっと柔軟であるべきだと考えている。

中国外交は当分の間ジグザグなものとなるだろうし、米中間では実り少ない対話で溝を埋めようとする営みが続けられるだろう。東アジア諸国で選挙や権力移行がある2012年にアジア太平洋情勢は不確実性が増すと考えられる。中国がstatus-quoとアメリカ主導のrule-orientedの地域アーキテクチャといかに折り合いをつけるかが問われている。国内的にも対外的にも、外交の均衡を取り戻さなければ地域の不安定化を招きかねない。このような政治的現実がもっとも好ましくない米国のこの地域における歓迎する向きに繋がっている。日本もまたこの流れの中で、昨年末の防衛大綱に沿って同盟を拡げる方向で、近隣諸国との関係強化に動き出している。

7/13/2011

Lebowと中国の方向性についてのメモ

 IISSの図書館で読んだRichard Lebowの'Why Nations Fight?’(2010 CUP)の抜粋メモ。
  1. The most aggressive states are rising powers seeking recognition as great powers and dominant great powers seeking hegemony.(p112)
  2. Rising powers and dominant powers rarely make war against each other. When they do, rising powers are allied with at least one great power. (p116)
  3. The preferred targets of dominant and rising powers are declining great powers and weaker third parties. They also prey on great powers who are perceived as temporarily weak, preferably in alliance with others. 
  4. So-called hegemonic wars are almost all accidental and the result of unintended escalation (p117)
  5. Unintended escalation and miscalculation of the balance of power have deeper causes than incomplete information. (p121)
台頭した中国の行くコースを考える上で、過去の大国の歴史をデータにしてルボウが導き出した上記の5つの命題は参考になる。(特に1、4、5) 各パワーの定義は: 大国Great power (status conferred on powerful political states by other powerful states) 、新興国Rising power(states intent on gaining recognition as a great power and recognised as such by their contemporaries) 、支配国Dominant (great power that is significantly more powerful than other great powers)。例えば日本は1868-1905年にかけて新興国、1905-1945年の間は大国、戦後は1945-1990年に新興国で1990年からは明示されていないが大国でいいだろう。 中国PRCは(1949-1990 Rising 1990-present Great)とルボウは定義している。支配国、ドミナントパワーとして挙げられているのは France (1659-1815)と US (1918-)の二カ国のみ。英国に関しては17世紀後半から今日までの300余年にわたって一貫して大国Great powerと本書ではされている。

新興国と支配国が戦うことは極めて稀とされる。例としてはフランスが1648年ハプスブルク家のスペインに攻撃したケースと、PRCが朝鮮半島で米軍と交戦した2例のみ。ルボウの提示しているデータでは支配国が仕掛けた戦争は24あり、新興国から始めたのは27例とされている。新興国の起こした戦争のうち10が大国であり、そのほとんどが大国か支配的国家と同盟を組んでのもの(例:1740年のフランスとともにオーストリアに攻撃したプロイセン)。支配的国家が新興国に対して戦争を仕掛けた事例はなく、相手は大国が9、衰退国declining powerが5、弱小国weak power相手が10とカウントされている。基本的に大国を巻き込む戦争では仕掛け側は敗北しており、全てのシステミックな戦争を仕掛けた支配国・大国は敗れている。

 21世紀においてRising Great powerである中国がどのような方向に進むか、歴史に照らし合わせれば中国が覇権(hegemony)を追求するかによるところが大きい。ルボウの枠組みでは中国は既にRising powerからGreat powerになっているので2の命題には当てはまらないだろう。これまでのところ新たに台頭してきた大国はその時の覇権国と衝突してきた、とされている。Hu,Angang  (2011)は ‘China in 2020: A New Type of Superpower’ Brookings Institution Pressで「現代の相互依存の世界のため、超大国(アメリカ)と勢力圏、天然資源、市場へのアクセス、軍事力の優越を巡ってゼロサムの競争をしない、従来のルールの例外に中国はなるだろうと主張している。
 
 一度assertiveな外交方針を見せてから再び平和的台頭に軌道修正するのは難しい。アイケンベリーが言う既存のリベラルな国際法秩序レジームの中での国益追求も、先般のWTO敗訴や南シナ海の領土係争で海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)を否定するような構えなどを踏まえると、おそらく壁にぶち当たると思われる。もっとも、米中衝突の機会が増え、突発的で想定外のエスカレーションが起こるとしても、その理由はリアリストたちが重視する勢力均衡の変化や国際システムの構造より、中国の国内政治要因が大になるのではなかろうかと現時点では見ている。

 戦略文化から考察しても、せいぜいactive defenceであって冒険的な拡大政策とは認識しない。中国はこの20年でグローバルなプレイヤーになった、つまりそれだけ経済成長し発展したことでこれを維持する資源獲得は共産党体制維持の見地からもさらに死活的なものになっている。ペルシャ湾から南シナ海までの長いSLOCの安全確保はそれこそ日本と同様に重要であり、裏を返せばかの国の柔らかい腹でもある。東アジアでは海自、インド洋ではインド海軍を、圧倒的な優位を誇る米海軍と共に警戒することになる。大国化に伴う問題はもう一つある。それは自国のパワーをいかに扱う(tame)か。南シナ海で現実のものとなっているが、不器用な振る舞いは周辺諸国を米国側に追いやって対中包囲網の形を作らせることになる。ナイが指摘しているように、中国を封じ込めるのは他ならぬ中国というやつだ。米国の対応はLyle Goldsteinが提言しているが、介入したい誘惑に駆られず、柔軟に実践的に、「外交」「対話」で中国を宥め賺すことになろう。Engage but hedge、仮に中国が非協力的であったら、その時はほぼ自動的に東アジアに米国にとって好ましい態勢が出来てくる。

6/17/2011

Trapped Giant, Fragile Superpower

 中国経済は日本の約20年後ろを歩んできたし、そうなると近い将来に同じ過ちを犯すかもしれない。2008年の金融危機以後、一見その力強い経済成長を維持してGDPで日本を抜いた中国であるが(北京大学のMichael PettisなどはそのGDPが過大ではないかと見ている)、その先行きの不確実さを多くの論者が指摘してきた。つい先日には、Financial TimesのMartin Wolfが今の中国とバブル前後の日本を比較している記事を書いた。かねてより私は、China as No.1はJapan as No.1と同じ末路を迎えるのではないかという仮説を持ってきた。度々取り上げられている不動産バブル、他の新興国と同様上昇傾向にあるインフレ(最新の数字は5.5%、食糧価格の11.7%上昇が牽引)、米国との摩擦を引き起こしている人民元問題に、輸出主導投資ベースから国内消費促進の構造転換、と個人的にはプラザ合意、前川レポート、バブル経済といった日本の80年代後半に起こったことを彷彿とさせる。

 2013年以降に中国経済はハードランディングすると最近Mr.Doomルービニが色んなところで言っているが、Project Syndicateに寄せられた彼の論考によれば中国経済は弱い通貨と輸出主導産業に支えられ、高い家計や企業の貯蓄率と固定資本投資(Fixed investment)に結びついてきた。そして金融危機以後にリセッションを避けてきたのはただ単に固定資本投資が爆発的に増えてきたから、と彼は指摘している。ルービニが問題点にあげているのはこの過剰投資は供給過剰につながる、人のいない空港やゴーストタウンを出現させ、利益を生まない無駄な事業への資金貸し出しを増やすことになるなど。これらは将来、不動産市場の価格急落が引き起こすであろうバランスシート毀損(リチャード・クーは中国もまたバランスシート不況に陥ると見ている、'There will be blood'とは刺激的な題だ)と一緒に強力なデフレの罠となって中国経済をスローダウンさせるのではないか。

 端的にまとめても中国経済の直面する課題の多くは、極端な格差(ジニ係数は2010年時点で0.47! 最も成功した社会主義と揶揄された日本より遥かに貧富の差に開きがある)を除けば、実にかつての日本に類似していると言えそうだ。太田述正氏は「中国は自由民主主義抜きの日本型経済体制を採用している」と考えている。金融危機以後の「国進民退」、政官が間接的に影響力を行使している日本よりダイレクトにコントロールされている生産性の低い国有企業が強い経済というのは市場を歪め持続可能ではないだろう。日本と中国の違いは、後者はまだプラザ合意のような急激なレート調整を回避していることか。一方で、副産物として米国債の保有が積み上がっているのは(この米中の関係は双方にとって健全でない、解消するのが互恵的という論説があるが、これは別の話)、対外的なショックへの対応を可能としても、日本のバブル崩壊のような国内の危機に際しては助けとならない。中国が日本をモデルとして経済体制を構築してきたという説が正しければ、いやそうでなくとも、現状を打開しLost Decadeを迎えないよう教訓を得ていると考えられるかもしれない。しかし This time is different, China is different(今度は違う、中国は違う)と楽観的な見通しを私は得られない。

 中国はチェスや将棋で言うところの詰み・チェックメイトにはまったのではないか? その答えはルービニの御神託では2年後にわかってくるだろう。台頭する中国は強大化していると同時に脆弱さも増しているように見える。インフレーション対策に金融政策を引き締めれば、資産バブルが急に弾けたりしないか(Pettisはこの点、金融危機よりも数年に渡る経済のスローダウン説をとっている) 日本の二の舞になるかどうかは政治指導者にもよるところがあるが、「中国政府は有能だが、水の上を歩くことはできない。中国が今後10年間歩かなければならないのは荒れた水面だ」というマーティン・ウルフの記事の結びで指摘している。そして中国がハードランディングすることになったとき、果たして経済面での困難が政治にいかなる影響を及ぼすか。2012年に来る新しい指導層はその船出から大きな時化に備えなければならないだろう。