中国が核兵器を先制使用しないというのは過去の国防白書などでも次のとおり明示されてきました。
中国は国連安全保障理事会の常任理事国と『核兵器不拡散条約(NPT)』を締結する核兵器国として、いついかなる時も、核軍縮の義務を回避することなく、公開、透明、責任を負う核政策を実行している。中国は一貫して、いかなる時、いかなる情況の下でも、先に核兵器を使用しないという政策を厳守し、非核兵器保有国と非核地帯に対しては、無条件で核兵器を使用しないか、または核兵器の使用をもって威嚇しないことを明確に約束した。(2010年度「中国の国防」白書和訳)しかし4月16日に公表された最新の国防白書 (英語版・日本語訳)においては、中国の過去の戦略文書において重要な礎石であった、はっきりとした「核兵器の先制不使用」に関わる記述が抜けおちています。
2010年の「中国の国防」では「十、軍備抑制と軍縮」という項目があり、ここに前述の核兵器の先制不使用について書かれていましたが、今回の白書では項目は5つに減らされ、軍縮に
先ずは英語版で関係する箇所を抜粋して見てみましょう。
If China comes under a nuclear threat, the nuclear missile force will act upon the orders of the CMC, go into a higher level of readiness, and get ready for a nuclear counterattack to deter the enemy from using nuclear weapons against China. If China comes under a nuclear attack, the nuclear missile force of the PLASAF will use nuclear missiles to launch a resolute counterattack either independently or together with the nuclear forces of other services.
当該箇所の日本語文は次のとおり。国が核の脅威を受けた際は、核ミサイル部隊は中央軍事委員会の命令によって、警戒レベルを高め、核による反撃の準備を整え、敵を威嚇し中国に対する核兵器の使用を抑止する。国が核攻撃を受けたときは、ミサイル核兵器を使用し、単独あるいは他の軍種の核戦力と共同して、敵に対し断固たる反撃を加える。 核兵器で攻撃を受けた際には中国も核兵器を使用して反撃する。このことについての記述のみ残っています。
中国は1998年から国防白書を出しており、今回が8度目になるのですが、過去の文書では必ず「核兵器の先制不使用」についてはっきりと言及していました。
この変化は重要です。また、何を書いているかと同様に何が書かれていないかも中国の政策を理解する上で鍵となるでしょう。
カーネギー国際平和財団のジェイムズ・アクトン氏が19日のNYTでこの点に着目するとともに、習近平国家主席が、核兵器を先制使用しないという約束を演説に入れていなかった(In the speech, Mr. Xi did not repeat China’s no-first-use promise.)ことから、中国の核ドクトリンが"China might use its nuclear weapons first"へとシフトしている可能性を指摘しています。
米中間で核について、高いレベルで継続的に協議・軍事対話を行なう必要があるとアクトンをはじめとして考えている安全保障専門家は多いのですが、どうも中国側が抵抗を示しているようです。
冒頭の中国の軍縮局長の発言は、特定の国(日本)に触れた点で異例とのことですが、「非核兵器国への核兵器不使用を明確」にした一方で核の先制使用について明確に否定しなかった、もっと言えば米国に対して核兵器を先に使用する可能性があるという含みがある点で疑心暗鬼にさせる発言でもあるでしょう。
そもそもこのような発言が出たのは、先の国防白書「中国の戦力の多様な運用」を受けて記者が質問したからではないかと推測しますが。。。
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