11/20/2011
南シナ海が問いかけるのは
この1年とちょっとの中国外交は「らしくない」ところが続いている。ホノルルに引き続きバリでも北京はワシントンと、そしてこれに寄り添う東京に面白くない思いをさせられただろう。温家宝首相はEAS(東アジアサミット)の前日に改めて従来の主張を繰り返して牽制した。曰く、「部外者は介入するな、当事者だけで解決する」。これは昨年のハノイ、ARF(ASEAN地域フォーラム)においての楊潔篪外相の、ヒラリー・クリントン国務長官の「航行の自由」、アジアの海洋コモンズ(公共財)への自由なアクセスと国際法の尊重を求める、これまでにないはっきりとしたステートメントへの反論の繰り返しだ。一方、この日出された日・ASEAN共同宣言では昨年のヒラリーの主張をなぞるかのように海上の安全保障に関する文言が盛り込まれた。
南シナ海は'assertive diplomacy'を続ける中国と、周辺諸国そして米国の間で最も熱いflashpoint(引火点)になっている。歴史的にはパラセル・スプラトリー諸島などを巡った領土問題が横たわり、これに天然ガス・石油といった資源が絡んでくる。またこの海域は世界経済の中心になりつつあるアジア経済と貿易、それから日本や中国のような東アジアの国々にとってはエネルギー安全保障の観点からも戦略的にとても重要だ。これら多くの要素はどれも単体で摩擦と紛争の種になり得るが、この海域が明らかにしているのは米中間のperception gap、認識の開きだ。
米国そして日本の論法では、課題はトランスナショナルな海洋安全保障であり多国間の枠組みで話しあうのがいいと考えている。一方、中国は当事国間の直接で解決されるべき領土・主権マターであるという。双方の思惑で、実のところ議論の対象がズレている。加えてその主権マターとなる島々の領有権、そして領海とEEZに関する中国の理解はやはり「独特」だ。
中国の南シナ海における主張、そのU字型の排他的経済水域(EEZ)は他国のEEZを飲み込む極めて広範囲なものだ(図参照)。これは南シナ海の中国の島々(と中国は主張している)からの延長大陸棚をベースラインにしている。しかし英シンクタンクRUSIのJohn Hemmingsによれば、これはarchipelagic state、群島国家に認められるルールであり、中国に適用するのは無理がある。また無害な(innocent)船舶の航行で予め領海を得ようとする中国の要求は、UNCLOS(海洋法に関する国際連合条約)やいかなる国際法にも支持されない。EEZの通過はUNCLOSの87条で保証されている。
今回のEAS、そして南シナ海についての議論で中国に対してより根源的な問いが投げかけられている。それは中国がどのような大国になるか、だ。長年の高度経済成長と不透明さがあいまって警戒を呼ぶ急速な軍事力増強、その結果近年見られるような過去の「平和的台頭」をうたった魅了的外交とは異なる、好戦的で自己主張的な外交はこれからも続くのか、一時的な逸脱なのか。ゼーリックの言う「責任ある大国」としてリベラルな国際秩序、それはルールつまり国際法に従ってやっていくものだ、の一員として振る舞うことに長期的な国益を見いだせるのか。
既に中国のいくつかの国内外の要因によって生じた不器用な外交は、北京の外交官たちにとって好ましくない戦略環境を作りつつある。昨年9月に尖閣諸島問題でぶつかった日本は、野田政権下で明確に古き同盟国米国と足並みを揃えて、経済貿易面のTPPに続いて中国にチャレンジしてきている。フィリピンはこのEASの準備段階で外交ハブとして、9月にマニラにASEANの、海洋安全保障やその法的枠組みに関して専門家を集めた。かつて中越戦争を繰り広げたベトナムはもっとも挑戦的だ。8月にはカムラン湾に米海軍の船がこの30年とちょっとで初めて寄港した。9月にはペトロベトナムがインドの国営公社と南シナ海の資源開発で手を組むと報じられた。(ペトロベトナムはロシアのガズプロムもビジネスパートナーとして引き込んでいる)。軍事的には2009年に6隻のキロ級潜水艦を買う契約に調印しており、巧みに中国の台頭を懸念する大国を引きこんで対中バランシング外交を展開している。
北京は米国が中心になって自国に対する包囲網が形成されている脅威を感じるかもしれない。しかしこれまでの中国の動きを振り返れば、諸国がリスクヘッジに動くのも理解できる。2009年3月に米海軍の海洋調査船Impeccableが5隻の中国船に海南島(中国海軍の潜水艦基地があるところだ)から75海里の公海で嫌がらせを受けたのは耳目を集めたし、今年3月には中国のエネルギー調査船の嫌がらせに対してフィリピン政府は軍艦を派遣して応じた。このような揉め事がいずれエスカレートすること、中国が「砲艦外交」を21世紀の南シナ海で行うことへの警戒心は簡単には拭えない。
しかし中国が2002年のCode of Conductの合意、係争を平和的に処理することを受け入れたラインに戻るのは簡単ではない。中国外交の「変調」は、地域のバランスオブパワーの変化もさることながら、国内の勢力争い的な面も反映していると考えられるからだ。英IISSのSarah Raineの見方はこの点を補強するだろう。大まかに分類すると、屈辱の歴史の後に大国となった中国が弱い周辺国に国益を損ねられてたまるかというPLAや資源ナショナリストら強硬なグループが片方にいて、もう片方に鄧小平の薫陶に忠実に権利主張を棚上げして発展を優先したい、主に外務省と商務省が中心の、やや穏健な集団がいる。両者の違いは目的ではなく手段にある。前者は軍事力行使も辞さない、恫喝を選択肢に入れるが、よりリベラルな後者はそれが長期的な国益を損ねるのでもっと柔軟であるべきだと考えている。
中国外交は当分の間ジグザグなものとなるだろうし、米中間では実り少ない対話で溝を埋めようとする営みが続けられるだろう。東アジア諸国で選挙や権力移行がある2012年にアジア太平洋情勢は不確実性が増すと考えられる。中国がstatus-quoとアメリカ主導のrule-orientedの地域アーキテクチャといかに折り合いをつけるかが問われている。国内的にも対外的にも、外交の均衡を取り戻さなければ地域の不安定化を招きかねない。このような政治的現実がもっとも好ましくない米国のこの地域における歓迎する向きに繋がっている。日本もまたこの流れの中で、昨年末の防衛大綱に沿って同盟を拡げる方向で、近隣諸国との関係強化に動き出している。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿