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11/18/2011

アジアの世紀、太平洋のアメリカ

‘The centre of gravity of world affairs has left the Atlantic and moved to the Pacific and Indian Oceans’ (Kissinger, 2010)[i]

 日本ではTrans-Pacific Partnership(TPP)の話題一色だったハワイ・ホノルルAPECから、豪キャンベラ経由で19日にインドネシアで開かれるEast Asia Summitまで、アジア太平洋というグランドチェスボードの上で米国が次々と戦略的布石を打っている。APECでも合衆国にとって安全保障は無視できない議題だった。オバマ大統領はイランの核開発問題についてロシアのメドヴェージェフや中国の胡錦濤に協力を促さなければいけなかったし、南シナ海を巡る議論、Darwinへの海兵隊駐留などを定める米豪同盟の強化、あるいは将来の在日米軍についてこなしていた[ii]

 It’s the security, stupid! 冒頭のキッシンジャーの引用どおり、これからの世界の政治的、軍事的、経済的重心は太平洋、そしてインド洋へと移っている。オーストラリアでのオバマの堂々たる宣言はこれを改めて明確にしたものだ。大戦略の文脈に置けば、豪ギラード政権のインドへのウラン輸出意欲や、来年に予定されている日印海上合同演習も、緩やかな民主的でリベラルな国際秩序を支持する海洋国家群の戦略的パートナーシップの形成、拡大的で不器用な自己主張外交を最近展開している中国を念頭においたヘッジ(hedge)戦略に繋がるだろう。オーストラリア北東部、ティモール海に面するDarwinは、’Indo-Pacific’の戦略拠点を置くには申し分ないだろう。この点は米海軍大James Holmesの、2007年の米海洋戦略を踏まえた論考の以下の部分参照。
‘A more central position would let ships, aircraft, and marines “swing” from one ocean to the other, cutting distances and thus transit times. From seaports like Darwin, furthermore, they can move back and forth while bypassing the South China Sea, a body of water that would be hotly contested during a shooting war involving China.‘[iii]
 このところの米国のやり方、多国間の枠組みでルールメイキングを主導しそれを以てstatus-quoとの折り合いをつけるのに苦労気味の中国に従うよう肘でつつく(nudge)、には簡単にまとめると3つのポイントがあろう。米中間のバイラテラルな外交は、通貨がいい例であるが、摩擦を引き起こすだけで効果的でないが、舞台空間を拡げてプレイヤーを増やす(日・豪・印etc.)ことで優位にゲームを進めることを可能にしている。2点目は、力を得てそれを好戦的強圧的に用いる中国に同じ力でカウンターするのではなく、国際法とルールに基づいた地域アーキテクチャの形成で間接的に圧力をかけていく(その裏付けには米国の海洋での優位などがもちろんある)スマートパワー的発想であることだ。最後に、このようなアプローチをとる背景には、対外的にはイラン・アフガンの「対テロ戦争」、国内的には金融危機で国力を疲弊した10年の後で、出来る限りburden sharingで負担を減らすことでCFRのリチャード・ハースが提言しているように自国の回復を果たしたいのが挙げられよう。Make a wealth, not war――TPP、自由貿易圏・統合市場を作ることで経済プレゼンスを確保しようとする試みもこの目的に適している[iv]

 米の「大戦略」(Grand Strategy)はオフショア・バランシングの一環と読んで差し支えないように個人的には考える。欧州方面では先のリビア介入で表向きは英仏に預けたように、本来なら東アジアでも応分の負担を日本らに求めたいところだ。パネッタ国防長官はこの先10年で4500億の軍事費削減の計画にもかかわらずアジアでのプレゼンスを維持する旨発言しているが、他方で従来通り地域の安全保障の大部分を米軍が担うことには同盟国を「甘やかす」という考えもあるみたいだ。

 軍事・作戦の観点では、Air-Sea Battleの担当局設置を先日ペンタゴンが公式に発表して今回のDarwinへの駐留、中国の弾道・巡航ミサイルの射程に入る前方展開されている軍事リソースが有事に減衰させられるリスクを無くそうとするのは理にかなっているのではなかろうか。個人的に不勉強なのでこれ以上は言及できない。

 また日本の怠惰と国内政治の不安定・優柔不断から「同盟」が期待通りに深化しない一方、 “no better ally than Australia” とBen Rhodesホワイトハウス安全保障副補佐官が表現した米豪の同盟関係は今回一層強化されることになった。テロとの戦いでshoulder to shoulderで共に戦ってきた、MDでもインテリジェンスでも深い結びつきにある、何よりアングロサクソン国家同士である。(Darwinの地は先の大戦で日本に攻撃された、歴史的な米豪の同盟を象徴する場所だ。「豪ナショナルアーカイブスに依ると、1942年の<日本の>空襲は少なくとも243名を殺害した。これは10週間前にパールハーバーの攻撃の指揮官によって計画され指揮されたものだ。ダーウィンの港で沈んだ船の中にはちょうど補給を受けていた米駆逐艦Pearyがあった、米海軍曰く」)[v]


防衛装備調達で米国にF-22の輸出を断られ、次はF-35 かスーパーホーネットかで悩んでいる点など、日本に似通った点もあるが決定的な違いをMossが指摘している。以下がその一部抜粋。日本と違って属国(client state)にはならんさ、と。 

‘Australia has the resources, and lacks the political constraints that hamstring Japan, to avoid this kind of client status: wise reforms and targeted spending can revitalize the country’s domestic defense industry, even if the suboptimal choice between the Super Hornet or the F-35 can’t now be avoided’[vi]

 オーストラリアが米国との安全保障関係をさらに密にすることを選んだのは大きい。オーストラリアがそうであるように、ASEAN諸国もまた安全保障面で米国を頼りにしていると同時に経済面で中国との相互依存の度合いが増している。これらの国々も、とりわけベトナムやフィリピンといった海上で中国と揉めているところは、米国のプレゼンスが経済的繁栄の基礎ともなるグローバルコモンズの安定、航行の自由を支える役割を担うことを歓迎するだろう。

 オバマのアジア太平洋外遊のトリを飾るインドネシア、EASでは海洋安全保障を平和的に処理するための多国間の枠組み作りが重要な課題の一つだ。EASに参加するのはこれが初めてで、Pacific powerとしての合衆国をますます強く印象づける機会となるだろう。もっとも早々に中国はこの試みを拒否する構えを示している。もとより昨年のハノイのARFASEAN地域フォーラムでヒラリー国務長官がアジアの海洋コモンズへのオープンアクセスと、南シナ海における国際法(UNCLOS、海洋法に関する国際連合条約)の尊重に米国が国益を有していると表明し、対する中国の楊潔篪もはっきりと不快感を示し「(領土に関する)問題を国際化しようとするあらゆる試みに反対する」と述べた経緯がある。多国間の枠組みで中国をルールに従わせようとするnudge and hedgeの戦略、これはTPPと同じだ。経済貿易では、中国もASEAN3あるいは6という枠組みで対抗できる。一方、領土・主権の問題では当事国同士バイラテラルの交渉で解決しようとする中国だが、合衆国はこれを前述したコモンズ、トランスナショナルな課題に引き上げようという構図だ。

 この南シナ海の問題については、TPPの陰に隠れて目立たないが日本も動いているし、ベトナムやフィリピンも個別に面白い動きをしているので次回のエントリーで取り上げたいと思う。



[i] Kissinger, Henry A.(2010) 'Power Shifts', Survival, 52: 6, 205 — 212

[ii] Nakamura, David ‘Global security trumps economics at APEC conference’ ,Washington Post, (http://www.washingtonpost.com/world/global-security-trumps-economics-at-apec-conference/2011/11/13/gIQAVO4KJN_story.html?tid=sm_btn_twitter 20111117日アクセス)  
[iii] Holmes, James R ‘U.S. Eyes Australia Base’ .Diplomat,  (http://the-diplomat.com/flashpoints-blog/2011/11/12/u-s-eyes-australia-base/ 20111117日アクセス)
[iv] 日本、カナダ、メキシコ、台湾が(交渉)参加の意志を表明し、中国にとって望ましいASEAN+3から流れを傾かせた感がある。なお、最終的に中国により高い水準の市場開放と障壁撤廃を求めるであろうが、ルールメイキングの時点で参加させる≒幾許かの譲歩をする可能性は皆無に等しいだろう。WTOドーハラウンドの失敗の轍を踏まないよう、組めるところで組むものと思われる。’To get in, China would have to foster more competition between private companies and state-owned enterprises, and boost protection of intellectual property rights, conditions China will have difficulty meeting. (Meckler Laura ‘Obama seeks Renewed Pacific influence’, WSJ (http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204323904577036423985081272.html?mod=wsj_share_tweet  20111117日アクセス))

[v][v] ‘Obama’s  Australia Visit Heralds Closer Relations’  Bloomberg (http://www.bloomberg.com/news/2011-11-15/obama-visit-heralds-closer-defense-relations-australia-says.html  2011 1117日アクセス)
[vi] Moss, Trefor ‘Australia : the New Japan?’, Diplomat (http://the-diplomat.com/flashpoints-blog/2011/11/15/australia-the-new-japan/ 20111117日アクセス)

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