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4/15/2012

オフショア・コントロールその2

 オフショア・コントロール戦略は競合する戦略の成果と比較されなけばならない。しかし残念なことに国防総省はASB(エアシーバトル)の作戦的概念しか出していない。ASBは実際には戦略の正反対(anti-thesis)である。それはどのように望ましい紛争終結へと導くかの説明なしに完全に戦術的な兵器システムの運用に焦点が当てられている。ペンタゴンの新しいJoint Operational Access Conceptは'Air-Sea Battle is a limited operational concept'と定めている。

オフショア・コントロールによって抑止と確証をその実現可能性と透明性から増すことができると考えています。エアシーバトルは用いられるテクノロジーを含め機密要素が大きく、ゆえに敵国も同盟国もどの程度信頼を置けばいいのかが難しく、ひいては抑止と確証についてジレンマを生じさせることになります。一方でオフショア・コントロールは対照的に共同演習などを通じて、敵味方双方に、米軍がいかなる戦略をとるかを知りこれを実行する能力があることを知ることができるとしています。

オフショア・コントロールの二つ目の利点はオーストラリアを除いた同盟国に駐留基地を必要としない、同盟国への依存を減らせることにあります。曰く、オーストラリアからマラッカ、スンダ、ロンボクの海峡を封鎖するのを支援する基地のみが必要とされます(前回のdominateの達成)。パートナーとなる国はその海・空において中国の攻撃から米軍が守ることを容認しさえすればよい(defendの達成)、防御は地上基地からの防空と短距離の機雷と対機雷の能力を含む海防に非常に依拠するだろうから、米国は平時において潜在的同盟国がこれらの能力の整備につとめることを促しつつ定期的に共に演習を行なうことができます。

またHammesはオフショア・コントロール戦略がこのように同盟国の必要な戦力強化と連携を平時から進めるとともに、米国が中国を攻撃することに基地使用を求めることはないだろう、パートナーの空海地を守るに足るディフェンシブなプレゼンスのみを求めるだろうと述べています。平時の訓練演習でインターオペラビリティを高めつつ、紛争が起きたときに米国側に加わるコミットメントは求めないだろうと指摘もしています。

オフショア・コントロールはASBと違って中国への直接攻撃は外交的解決、関係を踏まえると有用ではないとこれを否定しています。繰り返しになりますが、秘匿(secrecy)に依拠するASBと反対に外交官や軍人に戦略と作戦のアプローチを説明することを許容することで、不確実性を引き下げるように図ります。端的に述べるとASBがwar-fightingドクトリンならオフショア・コントロールはwar-terminating、いかに手早く紛争を終え平時に戻すかに主眼を置いた戦略と言えるでしょう。

この文脈でオフショア・コントロールの利点として核のエスカレーションの可能性を低減することが挙げられます。中国本土に対する攻撃やサイバー、宇宙空間におけるfirst strike、第一撃をとらない、その価値を引き下げることで、戦争の火蓋を切るインセンティブを減らすことでもって抑止の価値を高めることができます。遠距離の海上封鎖は上記のものと違って中国の早期警戒・司令管制システムが脅かされることなく、北京が余裕をもって判断を下すことができるようにします。ASBの求める攻撃は彼らに不十分な情報に基づいて性急な決定を余儀なくさせる恐れがあります。

信頼されるために戦略は経済的に予測される国防予算の削減の範囲内で持続可能なものでなければいけません。オフショア・コントロールは新たに大型の調達プログラムを要するであろうASBとは対照的に、既存の能力をベースに実行できるものです。敵の防空を貫くプラットフォーム、そのシステムのコストは非常に高くつきます。加えて、制海(sea control)はこれの拒否(sea denial)よりもさらにコストがかかります。オフショア・コントロールはA2/ADへの中国の投資の多くを無効化し、そのコストを相手の負担へと転化させることを狙います。

オフショア・コントロールは米軍の潜水艦戦力と第一列島線内側におけるsea denialを達成する機雷戦の優勢の上に成り立つものです。基本方針としては中国に数的に限られた長距離の戦力を米国と同盟国の海空地の統合された防衛にぶつけることを強い(相手の距離で戦わない)、唯一の例外が列島線内でも戦術上のアドバンテージを活かせる潜水艦となります(A2/ADで封じられない)。


大雑把にまとめますと、①中国側にこちらの戦略意図と能力を思い知らせることで抑止をより確実にする。 ②第一撃の価値を引き下げ敵本土における管制システムなどへの攻撃を最小限にすることで、北京が冷静な判断を下せるようにし核のエスカレーションを防ぐ。③現有の能力を基軸にすることで財政負担を軽減すると同時に中国側のA2/ADへの投資を無効にすることでむしろ相手の投資を非効率で負担になるものにする。 これらの点でオフショア・コントロールはASBより適切であるということが言われます。

なかなか興味深い案の一つだと個人的には受け止めています。(米軍の戦略文化上ありがちな)敵戦力の撃滅、完全な破壊ではなく戦争終結までの経路とそこで必要不可欠な北京の意志決定環境まで考慮にいれている視点はより戦略として洗練されていると評価したいです。本文でHammesはクラウゼヴィッツの原始的三位一体の感情passionに着目し、これが一度戦争が始まった後でしばしば推進力になるとし、今日の戦略家はこのポイントを見逃さないのが極めて重要だと簡潔に指摘しています。オフショア・コントロールがコントロールするのはオフショアという地理ともう一つ、北京の指導層の心理となると言えましょう。

累積的な海上封鎖はどのみち長期戦を想定した場合やることになるでしょうし、マラッカ・ジレンマ、SLOCsをチョークポイントで締め付けるというのは敵の弱点をつく戦略の基本です。またHammesが主張しているように同盟国が自身の領域防衛の能力を高めるというのは至極当たり前のことでしょう。第一列島線内で不可欠となる潜水艦と機雷という分野では、我が国の戦力もカウントされるところだろうと理解します。

そもそも論としてA2/AD対応で戦力投射能力を維持していく目的でASBDが出てきたわけですが、そもそも論として中国の政治的・軍事的目的の達成を妨害制限しつつ此方側の目的を達成する上でA2/ADを打ち破る必要性があるのかももっと問われていいところだと思います。DF-21Dなどで空母機動部隊を無力化する、言わばティルピッツの「リスク艦隊」理論の現代版、fleet in beingならぬmissile in beingとでも呼びましょうか。

しかし北海に集中させたドイツ海軍大洋艦隊が王立海軍Grand Fleetを釘付けにしても戦争の勝利には繋がらなかったように、空母機動部隊を東アジアの海で自由に行動させないだけでは中国が望む政治的結果を得るには不十分でしょう。

Much like Britain could choke off German trade and commerce in both world wars without contesting the North Sea, so the United States can impose a distant blockade on China should China use of force against U.S. interests and allies in East Asia.

米空軍大学(Air War College)のDouglas C. Peiferは'China, the German Analogy, and New AirSea Concept’ Orbis, Winter 2011で「もし中国がno go zoneを第一列島線で敷こうとしたら、米国と同盟国は沿海と台湾海峡を越えた場所での中国の戦力の投射を制限できる」と述べています。加えて中国海軍の限られたASW能力を考慮すれば、列島線内でもPLANの行動を逆に制限するのは取り得る選択肢になるでしょう。新世代の長距離爆撃機、在来型のグローバル打撃力、スペースコントロールとサイバー戦能力と、ASBDがリソースを割くことを求める戦力の拡充もいいですが、戦い方の発想、戦う場の設定を切り替えるのは次の戦いの先に望ましい結果をもたらす上で有益でしょう。


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