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4/22/2013

民主化はミャンマーのムスリムたちを幸せにできるか?

民主政治は最悪の政体なんて、半分アメ公の血が流れてて頭の中に黒い犬を飼っていた、葉巻とアルメニアン・コニャックが好きな英国人は嘯いていた。民主主義の水で育ち民主政治の酸いも甘いも噛み分けてきた、先進諸国の人間からすれば、勿論民主主義は独裁・専制よりも「優れて」「良い」もので、ゆえに民主化は称揚され支援される。しかし民主化への営みが必ずしも福利を国民にもたらさないことは、ジャスミンの残り香も消えたチュニジアやエジプトを見ていれば、否定はできまい。


さて、先週はミャンマー/ビルマの民主運動家にして現在は同国国会議員、野党「国民民主連盟(NLD : National League for Democracy)」を率いるアウン・サン・スー・チー女史の27年ぶりの訪日がニュースで大きく取り上げられました。

ご承知のとおり、ミャンマーはつい2年前にテイン・セイン現大統領の下で軍政から民主化へと改革がはじまり、これを評価する欧米から長年続いた経済制裁を解除・緩和されて経済発展の道程を歩みつつある、アジア最後のフロンティアです。

しかし約1年前に連邦議会の補欠選挙でスー・チー氏が当選して議員となり、メディアへの検閲が廃止されこの4月からは民営の日刊紙が創刊されるなど、順調に民主化への道程を、欧米や日本の支援を受けながら歩んでいる国の影の部分も強く浮き彫りにされています。

先月にミャンマー中部、マンダレー地域のメッティーラ(メイッティーラ)で仏教徒がムスリムを襲撃する事件が発生し、周辺地域に拡大した騒動で40人以上が亡くなりましたが、その時の光景をミャンマー警察が収めていたものがBBCで取り上げられました。

折しもヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が、昨年5月末から断続的に西部ラカイン州で発生した宗教間対立による(ラカイン族・仏教徒とイスラム教徒の少数民族・ロヒンギャの)衝突について、ミャンマー政府が「民族浄化(ethnic cleansing)」を”共謀”していたと非難する報告書を発表しましたが、改革を進めるミャンマーにとってこの問題は、おそらく自由民主化が進むほどに糸が絡まっていくものと思われます。

ミャンマ-国民の多く、90%は仏教徒です。彼らはロヒンギャを同じ国で共生する民族でなく、不法移民と見なして冷遇してきました。昨年のラカイン州の騒動で反イスラム感情は強化されたことでしょう。

こうした中、ミャンマーが民主国家として成長すればするほどに、大統領はじめ政治家は国民感情に背を向けてロヒンギャはじめイスラム教徒を擁護するのが困難になってきます。

現にアウン・サン・スー・チー氏もつい最近までイスラム教徒に立って声を上げず、人権団体等から沈黙を批判されてきました。彼女もまたビルマ族、仏教徒であり、国民の多くに支持される政治家としてイスラム教徒に対する攻撃を強く批判することができません。

民主化が進むにつれミャンマーのムスリムに対する風当たりがますます強くなるのではないか、不安にさせられる理由はもう一つあります。それは民主化に伴うメディア統制の緩和です。

メッティーラの事件が発生したとき、最大都市ヤンゴンでもイスラム教徒による報復の噂や敵意を煽るメッセージが流布されましたが、それらはSMSやFacebook、Twitterを介して広まったと指摘されています。市民が自由に情報にアクセスできるようになったこと、インターネットを使えるようになったことで、ネガティブな情報や噂もまた氾濫しやすくなりました。

全体としてミャンマーの民主化は歓迎すべき出来事ですし、圧倒的多数の国民が自由を享受し始めていることは良いことです。しかしその一方で複雑な問題、それも民主化により軍政時代よりも悪化するかもしれない問題が存在していることを肝に銘じる必要があります。

2015年に大統領を目指すアウン・サン・スー・チーや、テイン・セイン現大統領にとって、好転するミャンマーのイメージを傷つけるおそれのある宗教対立とマイノリティの問題は、リーダーシップを試していると言えるでしょう。ミャンマーの民主化がこの先イスラム教徒を排斥するものとならないことを祈るばかりです。

4/20/2013

中国国防白書2013と「核の先制不使用」政策

中国外務省の軍縮局長がジュネーブで「日本に対して核兵器は絶対に使わない」と発言したと、時事通信(2013年4月20日アクセス)などが報じました。また読売の記事(同日アクセス)では「中国は非核兵器国への核兵器不使用を明確にしている」と記者会見で話したとされます。

中国が核兵器を先制使用しないというのは過去の国防白書などでも次のとおり明示されてきました。
中国は国連安全保障理事会の常任理事国と『核兵器不拡散条約(NPT)』を締結する核兵器国として、いついかなる時も、核軍縮の義務を回避することなく、公開、透明、責任を負う核政策を実行している。中国は一貫して、いかなる時、いかなる情況の下でも、先に核兵器を使用しないという政策を厳守し、非核兵器保有国と非核地帯に対しては、無条件で核兵器を使用しないか、または核兵器の使用をもって威嚇しないことを明確に約束した。2010年度「中国の国防」白書和訳
しかし4月16日に公表された最新の国防白書 (英語版日本語訳)においては、中国の過去の戦略文書において重要な礎石であった、はっきりとした「核兵器の先制不使用」に関わる記述が抜けおちています。

2010年の「中国の国防」では「十、軍備抑制と軍縮」という項目があり、ここに前述の核兵器の先制不使用について書かれていましたが、今回の白書では項目は5つに減らされ、軍縮に

先ずは英語版で関係する箇所を抜粋して見てみましょう。

If China comes under a nuclear threat, the nuclear missile force will act upon the orders of the CMC, go into a higher level of readiness, and get ready for a nuclear counterattack to deter the enemy from using nuclear weapons against China. If China comes under a nuclear attack, the nuclear missile force of the PLASAF will use nuclear missiles to launch a resolute counterattack either independently or together with the nuclear forces of other services.
当該箇所の日本語文は次のとおり。国が核の脅威を受けた際は、核ミサイル部隊は中央軍事委員会の命令によって、警戒レベルを高め、核による反撃の準備を整え、敵を威嚇し中国に対する核兵器の使用を抑止する。国が核攻撃を受けたときは、ミサイル核兵器を使用し、単独あるいは他の軍種の核戦力と共同して、敵に対し断固たる反撃を加える。 核兵器で攻撃を受けた際には中国も核兵器を使用して反撃する。このことについての記述のみ残っています。

中国は1998年から国防白書を出しており、今回が8度目になるのですが、過去の文書では必ず「核兵器の先制不使用」についてはっきりと言及していました。

この変化は重要です。また、何を書いているかと同様に何が書かれていないかも中国の政策を理解する上で鍵となるでしょう。

カーネギー国際平和財団のジェイムズ・アクトン氏が19日のNYTでこの点に着目するとともに、習近平国家主席が、核兵器を先制使用しないという約束を演説に入れていなかった(In the speech, Mr. Xi did not repeat China’s no-first-use promise.)ことから、中国の核ドクトリンが"China might use its nuclear weapons first"へとシフトしている可能性を指摘しています。

米中間で核について、高いレベルで継続的に協議・軍事対話を行なう必要があるとアクトンをはじめとして考えている安全保障専門家は多いのですが、どうも中国側が抵抗を示しているようです。

冒頭の中国の軍縮局長の発言は、特定の国(日本)に触れた点で異例とのことですが、「非核兵器国への核兵器不使用を明確」にした一方で核の先制使用について明確に否定しなかった、もっと言えば米国に対して核兵器を先に使用する可能性があるという含みがある点で疑心暗鬼にさせる発言でもあるでしょう。

そもそもこのような発言が出たのは、先の国防白書「中国の戦力の多様な運用」を受けて記者が質問したからではないかと推測しますが。。。

4/19/2013

チョーク・ポイントを狙え

USS Freedomがシンガポールに到着した。

米国が沿海戦闘艦(LCS)をシンガポールに配備するというのは新しい話ではない。両国は計4隻のLCSをシンガポールにローテーションで配備することに合意している。

緊張が高まっているらしい朝鮮半島からやや離れた地で、米国のアジアへのpivot、あるいはリバランシングと呼ばれる戦略が動いている。

先日公表されたSIPRI、ストックホルム国際平和研究所の報告書によれば、米国の世界の軍事費に占める割合は39%と4割を切っているが、2位の中国(9.5%)以下10位ぐらいまでの国を合わせたよりも多額を支出している。

(ちなみに欧米が財政難などから軍事費を削減したこともあり、最新の世界の軍事費は10数年ぶりに減少した)

米海軍のプレゼンス強化は、グローバル経済の大動脈とも言えるシーレーンの安定と、それから地域の安定に資することを目的としている。

このような動きを面白く思わないのは中国だ。最新の国防白書では同盟国や友好国との関係を強化する米国を地域を不安定化させると牽制している。

国際エネルギー機関(IEA)の過去の報告によれば、2030年に中国は全世界のエネルギー消費量の4分の1を占めると予測され、原油消費量だか輸入量だかも2005年の4倍になると見られている。

その石油はどこから来るか? 陸上にパイプラインを建設するとしても、依然として多くは海を通って運ばれることになろう。常に中国は古くて新しいマラッカ・ジレンマに直面することになっている。

この地政学で言われるところのチョーク・ポイントに手をかけられるポジションを米国は確保している。

そしてこの中国の海洋戦略上のネックは、国防費の削減を迫られ、負担の軽減とリスクヘッジを東アジアのリムランドで必要とする米国に幾分楽でかつ堅実なオプションを与えることになる。

豪ダーウィンの海兵隊駐留、シンガポールのLCS配備、これらは西太平洋からインド洋という21世紀のグローバル経済、そして米国経済にとって多くの機会を与える海域に睨みをきかせている。

LCSの話に戻ると、この艦は浅い海の多い東南アジア海域に向いている上、100人足らずの少ない人数で動かせるのでコストを抑えられる。

今後10か月にわたって東南アジアで米海軍のプレゼンスを固めるとともに、この地域の諸国との演習に参加することになる。

米軍のこの地域の安全保障にコミットする確固たる意志を、多くの地域諸国は歓迎するだろう。

米中衝突を望むものはいないが、米国が存在し中国が軍事的冒険主義に走る可能性を低減してくれることは、グローバル経済の重心が移りつつあるこの地域にとって大いにプラスとなる。

4/17/2013

「秘密保全法」について思うこと

日々取り上げられる政治課題がいくつもある中で、秘密保全法案の話題は決して大きなものでない。

16日の衆議院予算委員会で安倍首相が言及したが、海外で自衛隊が邦人を輸送できるようにする自衛隊法改正のほうによりスポットが当たっていたように見受けられる。

よく日本はスパイ天国と言われるが、情報漏えいを罰せるのが国家公務員法で、懲役1年は軽すぎる。

2010年に警視庁の国際テロ捜査に関する資料が流出する事件があったが、このような事態を未然に防ぐ、あるいは発覚時に対処して情報保全を適切に行なっていく上で、法制度の整備は不可欠だ。加えて、今年1月にアルジェリアで邦人も巻き込まれ犠牲になった襲撃事件があったばかりだが、このような緊急事態に各国の情報機関と連携協力していく上で、情報保全体制に穴があっては齟齬が生じよう。

さて、ここで問題となるのがこれまで議論されてきたように「秘密」の範囲だ。国民の「自由」や「権利」を制限することをやむ無しとすることは正統化できるのは、一つは「安全保障」マタ‐だ。

前述のアルジェリア・イナメナスのような事件は滅多に発生するものではないが、だからと言って情報面で万全の備えができていないがために「予防」も「対処」も不十分となれば、人命が失われる。

ここで、例えば日弁連の「発覚後に再発防止策をとっているから」不要という論は、最初から予防を考えておらず、危機管理意識の欠如が指摘される。また、法整備を疎かにしての再発防止策には限界があろう。超法規的に内々に情報漏えい者・内通者を処分するのも一つの案だが、法の支配を重んじる国のすることではない。

「外交」もすぐに公開されるべき類ではない内容が含まれている。現在進行形のTPPがいい例だが、交渉参加国は保秘をしっかり行なっている。それは各国が国益を守るためでもあるし、信頼なくして交渉事を進めることはできないからだ。

特にこの二つの領域において憲法で保障されたものより優先されるものがある、というのは他の自由民主主義国においても、戦時・有事にあっては標準的である。

と同時に、「国益」や「公共の利益」の名の下にバランスが損なわれることがないよう、一定期間を経ての情報公開の枠組みや公文書保存のルール、立法府の監視など併せて制度に盛り込む事項があると考える。

国家が存続して主権を行使できなければ憲法も、そこに書かれた自由や権利も脅かされる。一方で国家は目的ではなく、守りたい価値を守るための手段・道具だ。その点は安全保障を重視する上でも失念してはいけないだろう。