なので1本1本、今回の法改正で何がどう変わるのかを見ていきたいと思います。
本日は「自衛隊の任務、自衛隊の部隊の組織及び編成、自衛隊の行動及び権限、隊員の身分取扱等を定める」(隊法1条)、自衛隊法の改正について見ていきます。
今回の主な改正事項は
① 在外邦人等の保護措置 (新設、第84条の3、第94条の5)
② 米軍等の部隊の武器等の防護 (新設、第95条の2)
③ 平時における米軍に対する物品役務の提供の拡充 (第100条の6)
④ 国外犯処罰規定の整備 (第122条の2)
です。これらは概ね集団的自衛権とは関係ない項目です。
集団的自衛権(存立危機事態)に関係する部分は後述します。
①「在外邦人等の保護措置」は
1)外国における緊急事態発生時に、
2)当該外国の当局が治安維持にあたっており、かつ、戦闘行為の可能性がない場合
3)当該外国の同意を得て、
4)邦人等の警護、救出、輸送その他の措置を自衛隊ができるようになります。
武器使用については正当防衛・緊急避難の場合に許容されます。
これは集団的自衛権の行使とは直接関係ない事項ですね。おそらくは中東や北アフリカ(アルジェリアやチュニジア)で相次いだ過激派組織による邦人テロ被害を受けて議論してきたものを、今回の法改正に盛り込んだのだと思います。
②「米軍等の部隊の武器等の防護」は、
1)共同訓練をはじめとする自衛隊と連携して日本の防衛に資する活動(現に戦闘行為が発生している現場で行われるものを除く)をしている米軍やほかの国の軍隊の武器等を、
2)米軍やその他の軍隊から要請があり、
3)防衛大臣が必要と認めた時に、
4)自衛隊が防護でき、
5)正当防衛・緊急避難に当てはまる場合には武器の使用も認められます。
表現がややこしいですが、1)の「自衛隊と連携して日本の防衛に資する活動(現に戦闘行為が発生している現場で行われるものを除く)」と5)の武器使用権限から、これも集団的自衛権の行使と関係ないものと判断されます。
③「平時における米軍に対する物品役務の提供の拡充」は、簡単に言えば「自衛隊の部隊と一緒の現場で活動する」米軍を新たに対象とします。具体的には次のシチュエーションで一緒に行動する米軍部隊が支援対象に追加されます。
1) 自衛隊施設や駐留米軍施設に対する破壊(テロ)のおそれがあるときの警護出動
2) 海賊対処行動
3) 弾道ミサイル破壊措置をとるために必要な行動
4) 機雷ほか爆発性の危険物の除去処理
5) 在外邦人等の保護措置
6) 船舶または航空機による情報収集・偵察活動
また、これらの活動に際して弾薬の提供が可能になります。そのほか、米軍施設に一時的に滞在する自衛隊と一緒にいる米軍が、自衛隊施設に一時的に滞在している米軍と同様に物品役務提供の対象となります。
ここで言う物品・役務ですが、「(武器をのぞく)補給、輸送、修理及び整備、医療、通信、空港及び港湾業務、基地業務、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務、建設」を指します。
④「国外犯処罰規定の整備」では、
1) 上官の職務上の命令に対する多数共同しての反抗および部隊の不法指揮
2) 防衛出動命令を受けたものによる上官命令反抗・不服従等
が、日本国外においても国内同様罰せられるようになります。既存の条文の適用拡大です。
長くなりましたが最後に「存立危機事態」、本筋である集団的自衛権の行使に関係する改正です。
第76条の2が新設され、存立危機事態(我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態)にも、日本に対する武力攻撃が発生した際、すなはち個別的自衛権を行使する場合と同じく、「防衛出動」ができるようにするものです。
防衛出動にあたっては、「原則、事前の国会承認が必要」となります。例外として緊急で事前承認を得る余裕がない場合は事後承認となっていますが、これは従来の個別的自衛権に基づく防衛出動と同じ扱いです。
さて、ここまで自衛隊法の改正案について大まかに見てきましたが、集団的自衛権と関係しない項目もあり、要領を得ないところが多いと思います。
実はこれ以外にも、存立危機事態、重要影響事態に関係する事態対処法制や、PKO協力法の改正、国際平和支援法の新設を受けて条文が追加されたり変更されている箇所があり、そちらも参照しないと全貌を把握できないものとなっています。
(なので、最初に基本である自衛隊法改正を取り上げましたが、他の法律の改正について巡った後、もう1度カバーいたします)
最初に「複雑です」と記しましたが、これを広く国民に理解してもらうというのは極めて困難な作業です。
次回は国際平和協力法(PKO協力法)の改正箇所を見ていきます。
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