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1/09/2014

2014年の世界のリスクを考える~後編

2014年もあっという間に1週間が過ぎ、日々起きる出来事のフォローに追われてる。

さて、遅くなりましたが2014年の世界のリスクを考える、後編やります。

6.新興国のスローダウン
 過去数年間、金融危機に見舞われた米国や欧州に代わって世界経済を下支えすると言われていた国々だが、その成長が鈍化、あるいは陰りが見えている。BRICSのうちロシア、ブラジルは今年五輪、W杯という国際的なスポーツの祭典を控えているが、どちらも過去2年に経済成長の勢いを失っている。中国は高度成長から次のフェイズへと進もうと各種改革が行われようとしているが、経済構造の転換に難儀しており、不動産市場の高騰やシャドーバンキング、地方の債務問題などが下降圧力となっている。
今年の材料は米FRBによる金融政策の漸進的平常化だ。昨年すでにその観測でトルコ、インドネシアなど、新興国市場にそれまで流れていた資金が逆流して一時的に通貨が急落するなどした。2008年の金融危機発生時には新興国のデカップリング論も出たが、蓋を開けてみれば世界経済に組み込まれ、より一層影響を受ける状況にあり、米国の金融政策はタイから南アフリカまで、多くの国々の経済を減速させる。

7. 大衆運動と政情不安
 1月5日に野党不在の総選挙が行われたバングラデシュ、2月に急遽選挙が実施されることになったタイ、EU派とロシア派に引き裂かれるウクライナ、国軍のクーデター以降の不安定が続くエジプト、と以前から政情が混乱している国は2014年も引き続き反政府の抗議に悩むことになるだろう。このほかにも、例えば昨年7月の選挙で野党が躍進したカンボジアでは、賃上げを求める労働者のストもあって年末年始にかけて不安が拡大した。中進国や製造業を中心に外資が目を向ける労働力が安価な途上国では、汚職など政治への不満や、賃金など労働環境の問題から、通りで抗議する流れが勢いを増すおそれがある。

8.「中国」の手綱を握る習近平
 中国は明らかにそれまでの「平和的台頭」路線から転換した。一方的で突然な防空識別圏(ADIZ)の設定は日本、米国、韓国などとの不要な摩擦を生じさせたが、やがて既成事実になると踏んで北京の政策決定者はさまざまな効果を期待して戦略的にテストしてきたと言える。東シナ海、南シナ海で引き続き波を高くするだろう。
 国内経済や社会の問題に対する批判を、プロパガンダによって醸成した中国国民の日本への敵意を利用することで逸らす動機・効果もあるだろうが、それは副次的なものと見た方がいいだろう。中国のサラミを一枚一枚薄切りするように外へ伸張する戦略は、東アジアの秩序を変化するバランスオブパワーに沿うように作り替えるものだ。
 日本や米国、地域の諸国は剛柔使い分けて中国を望ましい方向に導く、あるいは今ある枠組みの中でフィットさせようとしているが、中国をコントロールすることは叶わないだろう。
 中国自身も、習近平も、大国となった中国を巧みに操れているのか疑わしいところがある。中国は外交巧者と見る傾向もあるが、かの国とその指導者に、現代の国際社会で、大国のパワーを有する中国をさらに台頭させる上で必要な術を教えてくれる教訓は中国自身の歴史にはないだろう。

9. サイバー空間における脅威
 国家・企業、時として個人に対する潜在的リスクは高まりこそすれ下がることはない。
 国際協調の枠組み、法的環境整備が徐々に進んでいるとはいえ、基本的に自然状態な領域であることに変わりはない。 悪意を持った国家や犯罪組織が比較的リスクの低い見えない攻撃をこれからも重用するだろう。

10.中東
 ご覧のありさま。見通しは据え置きでネガティブ。良いニュースが悪いニュースより多い可能性は極めて低い。以上。


1/02/2014

2014年の日本政治を読むという徒労

2013年レビュー

2013年は夏の参議院選挙を経て久方ぶりに安定政権が樹立されたことで、日本政治は混沌として複雑怪奇な状況を脱した。経済政策においては黒田日銀体制での金融緩和拡大と財政支出拡大の統合マクロ政策が奏功し、各種経済指標に明確な改善が見られた。二院を押さえたことに加えて、経済面での成功を背景とした高い内閣支持率+政党支持率を維持している安倍内閣は向こう3年間、国政選挙を気にせず、中長期の視点を持って政策を推進するマンデートを与えられた。

一方で野党はクレディブルな代替ビジョンを提示できていない。反対し、批判するのは重要な役割の一つであるが全てではない。特に民主党は政権を一度担当して国民を大きく失望させた手前、その声を聞いてもらう状態にない。分裂したみんなの党、いつ分裂してもおかしくない維新の会も新党設立時のフレッシュさやモメンタムを失った。

野党が頼りない中、自民党に対して有効な拒否権を有しているのが連立与党である公明党である。既に集団的自衛権を行使可能とする解釈改憲は先送りされるなど、政策面で一定の影響力を及ぼしている。

 

経済政策は先行き不安も

何にも増して重要なイベントは4月以降の消費税引き上げだ。経済の好転に伴う税収増を財源に、新規国債発行を抑制しながらの財政政策による手当は、短期的な経済の減速をある程度低減できる。同様に鍵を握るのは日銀の追加緩和であり、これが増税前になるか、増税後の四半期の経済成長率等の影響を見てからになるか、これまでの黒田総裁らの発言を踏まえると後者の可能性が高いだろう。

TPPも今年の大きなイベントとなる。米国が中間選挙の年となり、交渉参加国間のスタンスの隔たりもあって、早期の妥結は難しいと見られるが、各国とも一定の譲歩と妥協をしながら締結する方向で交渉を進めることは変わらない。域内自由貿易協定、高度に開放された統一的経済圏に加わることは、国内の政治経済体制にかなり劇的な変化を要求することになる。TPPの内容を受けて、市場から期待されている規制緩和などは徐々に現実味を帯びるだろうが、その速度は首相が高い支持率をリーダーシップに変換して与党内の反対を封じ込められるかにかかっている。

国際経済では米FRBが大規模金融緩和から少しずつ平時化を図ることになる政策転換が始まるが、金融危機以後のQEで新興国に流れ込んだマネーが逆流することによる負の影響が出てくるだろう。欧州では南欧を中心に高い失業率や需要の不足がデフレ圧力としてかかり、ドイツなどわずかな勝ち組を除けば不況の長期化が避けられず、将来にわたって競争力を失い経済が縮小しかねない。

「普通の国」化が進むも障壁は多い

NSCの創設、新たな国家安全保障戦略の策定、中期防と新防衛大綱下での変化する安全保障環境への対応、そして秘密保護法の成立と、秋冬に日本の安全保障政策は大きな転換点を迎えた。後世の日本の安全保障政策を研究する者にとって、この時期の政策は必ず注目され、東アジアの安全保障への影響、ひいてはグローバルな安全保障の観点で論じられることになるかもしれない。

2014年の最大のチャレンジは解釈改憲による集団的自衛権の解禁だ。この一点に安倍内閣の安全保障政策の評価がかかっていると言っても過言ではないが、秘密保護法の時の反発や、公明党の慎重論を受けて、早期の解釈改憲にこだわらず国民の理解を得るためにもう少し時間をかけることも考えられる。

解釈による「改憲」には必ずやメディア・スクラムによる批判が起きるだろうし、いかに中国の潜在的脅威を受けて国民の間に安全保障の強化を望む機運が拡がりつつあるとはいえ、「改憲」への抵抗は未だ大きい。逆に言えば、解釈改憲のハードルを乗り越えることができれば、具体的に日本の防衛力を強化する各施策はより円滑に運ぶことが可能となろう。

注目されるのは尖閣周辺で活発に仕掛けてくる中国の動向だが、既に習近平政権下で大国として振る舞う路線に入っており、2014年もその軌道が修正される見込みはほとんどないだろう。ADIZに続いて、東アジアで日本、ひいては米国を試す行動を選択する可能性は非常に高い。しかし現段階で不要不急の衝突を招かない程度に計算された行いをするだろう。

 

政治資本を要求する難題:原発再稼働

昨年末に仲井間沖縄県知事から辺野古移設の、行政上の手続きにおける承認を得たことで、鳩山政権時代に重しとなった普天間基地移設は少しずつ進むものと見られる。民主党前政権から直面しているもう一つの難題は原子力発電とエネルギー政策だが、経済最優先の安倍政権はいくつかの原発再稼働に踏み切るだろう。

消費税増税に燃料輸入コストの転嫁による電気代値上げが続けば、家計に出血を強いることとなり、経済全体の成長が続いても不満の声が次第に増えてくる。これは避けたいところであるし、政権としてどこかで再稼働により石油や天然ガスの輸入を減らして、貿易赤字を絞りたいところだろう。

一度野田政権の時に大飯を再稼働したこともあり、抵抗や反発はその時に比べれば小さいだろうが、それでも決定を下したときに世論は二分され、マスコミから批判を浴びるのは想像に難くない。再稼働決断の時期は夏以降が予想されるが、消費税や集団的自衛権、ほかにイレギュラーな事態(スキャンダル等)で政治資本を消耗していると、決断を先送りにするかもしれない。


続く?

1/01/2014

2014年の世界のリスクを考える(前編)

2014年、「あの戦争」からちょうど百年目となるメモリアル・イヤー。

新年一発目に、ずばり2014年の世界のリスクを考えてみる。

1. テロとの戦いinアフリカ
アルジェリア・イナメナスやケニア・ナイロビで発生したような、グローバルなテロネットワークとローカルな過激派が結びつき、欧米権益やこれと協力する統治能力の低いその国の政府に対するテロ攻勢を続ける可能性はかなり高い。アルジェリアからサヘル地帯をまたにかけて活動するAQIM(イスラム・マグレブのアルカイダ)、ソマリアから東アフリカ諸国を脅かすアル・シャバーブ、ナイジェリア北部にイスラム国家建設を目指すボコ・ハラムと、南部アフリカ以外ではイスラム勢力が伸張している。

2. 米中間選挙とオバマ政権のレームダック化
2013年はオバマにとって最悪の一年だった。しかしシェイクスピアの一節を引用するならば、今が最悪だと言えるうちはまだ最悪ではないのだ。中東で、東アジアで、地域の同盟国はリーダーシップを発揮できない米国に苛立つ機会がますます増えるかもしれない。

3. 欧州議会選挙で反EU・極右政党が台頭
フランスの国民戦線を率いるマリー・ルペン、オランダのヘールト・ウィルダース自由党党首の連携はじめ、英国独立党の躍進等、EU加盟国で、ブリュッセルで自分たちの運命が決められる(と考えている)国民の間で不満が募っている。欧州議会は5月に実施される選挙後にもっとも反EU的なメンバーで構成されることになるかもしれない。それは経済が低迷するEU圏にとっておそらくプラスには働かない。

4. 米英主導の国際部隊が撤退した後のアフガニスタンと中央アジア
ようやく米国は長い戦争を終え、兵士たちはGo Home Quickly。しかし新生アフガンの治安維持能力はとても心もとなく、米軍戦闘部隊撤退後に強力なタリバンの巻き返しを防げる術を持たない。大きな力の真空は予想外の影響を中央アジア地域にもたらすかもしれない。

5. 朝鮮半島で再燃する危機
DPRKは今年も平常運転です。だいたい、北の権力中枢が何考えているか予想しても当たらない、昨年末の汚物を消毒劇も多くのアナリストにとって予想し得なかったイベント。とりあえずリスクなのは間違いない、いつミサイル発射したり核実験行ったりして地域の緊張を高めることになっても不思議ではないのだから。

後編に続く。