ピーターソン国際経済研究所が紹介しているPeter A. Petriらのモデル試算では、環太平洋経済連携協定で最もベネフィットがあるのは日本で、輸出は12%、所得は1060億ドルまたはGDPの2%が最大増える可能性があるという。ちなみにもう一つ進められているRCEPでは所得増は960億ドル、仮に両方進めればGDPの約4%が最大増えるそうな。
不参加の場合は自由貿易"ブロック"から締め出されるということで所得、輸出ともに若干のマイナスという話だが、こちらの数字の方が参加した場合の期待値よりもリアリティがあるように見受けられる。
日本政府の試算(GDPで約3兆円、経済成長率にして0.5~0.6%プラス)にしても、前述のピーターソン国際経済研究所の試算にしても、前提条件がちょっと変われば外れる数字であるが、マクロで見れば日本経済にとってプラスというのは否定し得ないところらしい。
米国側の戦略視点だと、成長するアジア市場に重心を移すのもさることながら、TPPを梃子に今一度中国に対して自由貿易のルールを受け入れさせようとする意図がある。ルールを握る、自らが主導できる秩序を作っていこうとする‐‐米外交評議会のエリザベス・エコノミー上席研究員はジョン・ケリー国務長官が議会の指名承認公聴会で中国に係る箇所で述べたかったことの1つとして指摘している。
それぞれの国がそれぞれの国益を考えて交渉に臨む中、我が国がバラ色の未来を勝ち取ることができると主張するのは無謀だけれども、日本が正式に交渉に参加し、12か国+αの協定としてスタートを切れば、TPPはゲームの流れを変える一手になりそうだ。
日本のTPPを巡る主要メディア上の議論は拾えた範囲で目を通しているけど、今後20年30年のスパンでアジア太平洋の秩序をどうするかという世界観から入ったものよりは、テクニカルな各論を掘り下げたものが目立っている。「入る、入らない」と受け身になっている時点で、選択の範囲は相当狭められているだろう。
国内政治の観点だと、高い支持率がある今だからこそリスクテークできたのだろうし、決断と改革的な姿勢は広範に一定の評価を得られるもので、そりゃあJAはじめ農業団体票が逃げちゃうけれど、野党が弱いのと都市部スウィングボーターの票でカヴァーできるんじゃないかと。
個人的には、TPP参加は早いか遅いかの問題で、ギリギリでも「交渉」できるメンバーであったほうが、後から一方的に条件を呑まされるよりはダメージが少ないのではなかろうかと、肯定します。
冒頭のPetri氏らの理論値のようにおいしい話ではないでしょう。マクロでプラスと見たけど、ミクロでは大打撃を食らう業界、急激な制度変更、慣れないルールへの適合を強いられる業界が出てくるのは不可避です。
みんなを幸福にするのが不可能な中で、不利益を被るところに手当をしつつ、移行期間を設けてソフトランディングさせられるような政策を打ち出すことが不可欠でしょう。ぐらいしか言えないかな。
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