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9/26/2014

東アジアの安全保障と潜水艦

英王立国防安全保障研究所(RUSI)が発行するNewsbriefで、南洋工科大学RSIS国防戦略研究所のMichael Raska研究員が東アジアにおける潜水艦の近代化(modernisation)について分析しています。一言で「潜水艦は東アジアでますます価値のある戦略的資産(strategic asset)になっているよ」とまとめることができます。

冒頭で7月に韓国のType214潜水艦が進水したことに触れ、地域の各国にとって同型のようなディーゼル・エレクトリック方式通常動力潜水艦がトレンドとなっており、これが地域の戦略環境を反映しているとしています。

例によって中国の列島線、A2/AD戦略、急増する軍事費をなぞった上で、かの国の潜水艦陣営を取り上げています。中国が現在保有しているのは6つの型(うち通常動力2タイプ、原子力4タイプ)計45隻と見積もられています。注目しているのが2004年から12隻配備しているとされる元級、同研究員は人民解放軍海軍(PLAN)が同型を20隻まで増やして、ロシア製艦艇やドイツから輸入したエンジンから選択的に技術を採用して云々するのではないかと見ています。

The  PLAN  may  introduce  up  to
twenty additional Yuan-class submarines
utilising  other  key  technologies
selectively adapted from Russian boats
and  imported  German  diesel-electric
engines.  
中国は90年代半ばから、ロシアから多くて12隻のキロ級潜水艦を調達し、第4世代アムール級を少なくとも4隻購入するか検討していると報じられ、あるいは現在開発初期段階のカリーナ級にも関心があるとのこと。このような中国の潜水艦戦力増強に対し、日本や前述の韓国も対応し新造艦の調達を志向しています。

東アジアだけではなく、東南アジアでも潜水艦は重要な存在で、こちらのThe Diplomatの記事では、ベトナムがロシアから購入したキロ級潜水艦で対中非対称戦略、対中抑止能力の向上を図っていることを取り上げています。5月に南シナ海のベトナム側のEEZ内で中国海洋石油総公司が石油掘削装置を設置したことで一悶着あったベトナムは、2009年にロシアからキロ級6隻を購入することを決定し、2016年末までに様になる抑止戦略を運用し得るようになるとのことです。








9/21/2014

対中海軍戦略と潜水艦

カナダの友人が先般の安倍首相南アジア訪問についてNational Interest誌に寄稿してましたので、興味とお時間がある人はどうぞ。


中国が現在推し進めているA2/AD(Anti-Access, Area-Denial)や、これに対抗すべく米国が打ち出したAir Sea Battleについては多くの議論が為されておりますし、今更1から言うこともないでしょう。

他方で、日本がどのように中国海軍の近代化とより野心的なその動きに対処していくのかということは、いくつかの提言がありますが、米海軍大学のジェームズ・ホームズ教授の論考をやはりNI誌で読みましたので、これをたたき台に一つ取り上げてみます。

ちなみに、ホームズ教授は上記論考において、オーストラリアが現在のコリンズ級の後継候補として考えている「そうりゅう型潜水艦」について取り上げ、米海軍も原子力潜水艦(ヴァージニア級)にこだわらず、静かなディーゼル型の通常動力型潜水艦の取得も視野に入れるべきではないかと述べておられます。

誰もが指摘し否定できないところですが、西太平洋の海域において現在のトレンドで行くと、例えば2030年に想定されるところ、25隻~33隻のSSNs(+海自潜水艦22隻)で人民解放軍海軍(PLAN)の潜水艦70隻以上に対抗しなければならないという、数的不利が生じます。この47対70という数字も、戦力を全て集中できるという非現実的な前提に立っています。

この問題に対処する上で、米海軍はユニットコストが安くバジェット的にも受け入れられるし(単純計算でそうりゅう級5隻≒ヴァージニア級1隻)、日本のほか豪州ともプラットフォームを共有することで多国籍潜水艦部隊(a multinational East Asian submarine force)を組めたり、日本やグアムからだけでなく南からもオペレーショできるよと、そうりゅうのような通常動力型の優れた潜水艦をもっと組み込むのはどうだろうと述べておられるわけです。

もちろん、米海軍の潜水艦艦隊、海軍全体、議会、防衛産業から圧倒的な抵抗があることは教授も認められるところですし、オーストラリアでも既に全部日本で製造することに雇用等への影響から反対意見が出ているのは報じられているところ、簡単にスイッチできるものとは考えておりません。

さて大ざっぱにご紹介したところで本題ですが、日本が選択し得る戦術を考慮するにおいて、2pの「(日米同盟軍は)中国のアクセス拒否へにはアクセス拒否で返せ」というのがホームズ教授の基本的なラインとなります。

第一列島線に沿って展開した潜水艦、水上艦、陸上ミサイル部隊、沿岸部からの航空戦力によって、中国側が列島線上に上陸拠点を確保することを阻止し、重要な水道から西太平洋へ抜けるのを妨げ、通行を危険にできるとしております。

一言でまとめると、一種の相互確証海上覇権拒否(a kind of mutual assured sea denial)を成立させろという案です。

潜水艦戦や、ここでは触れられていませんが機雷戦は、日本が単独でも地理的+質的優位を保持しており、見通し得る将来においても中国に後れを取ってはならない領域でしょう。

10年後20年後を予測することはできませんが、中国経済が決定的な破局を迎えでもしない限り、かの国は海軍を含め軍事力の全面的な近代化・増強に多くのリソースを割いてくるでしょう。

日本や米国が十分な投資を行わない場合、彼我の戦力差が縮まるのはもちろん、一部では質的に逆転される可能性は否定できないものです。

絶対的な経済力・軍事力において日本が中国と張り合うのは基本的に難しいと見られるところ、相手方の弱い部分を的確に衝けるようにしておくことで、中国側の戦争のコストを引き上げることが求められます。


9/06/2014

フェローっていいねって話

 月曜に帰国して火曜から日常に戻りました。

 今回のハワイ、それから今年3月にワシントンDCで行われた国際会議・フォーラムには所謂フェローの資格で参加しましたが、経験を踏まえて自分なりに「フェローシップのここが素晴らしい」と認識した点を書き出してみます。

① お金を出してもらえる。
  院生・若手研究者にとって国際学会・ワークショップの類に参加するための費用を負担してもらえるのは大きい。航空券代、宿泊費、会費、食費、空港からホテルまでの交通費、これらを払ってもらえる。ほとんどタダで渡米できるのは素晴らしい。

② パブリケーションや政策提言の機会が得られる。
  カンファレンス・ペーパーや、あるいはシンクタンクが提携している媒体で自分の書いたものをパブリッシュできる。また、他の媒体にもPR部門の協力を得てアプローチすれば掲載される確率が高まる。影響力のあるシンカーへの第一歩となる。

③ CVに書けることが増える。
  貴方の研究やリーダーシップを磨くことにスポンサーがついた、すなはちお金を出すに値するとの証明書が与えられた。フェローの力で掲載できればパブリケーションレコードの項目も賑やかなものとなる。

④ オールドボーイズネットワークへようこそ。
  政府、シンクタンク、大学、民間、NGO、ジャーナリズム、これらの世界で将来上に立つかもしれない各国の若手と交流し議論し切磋琢磨していけるのは他所では得られない「資産」となるだろう。築いたネットワークはいずれ仕事や研究の上で助けとなる日がやってくる。

⑤ キチョハナカンシャ、シニアに話せる訊ける覚えてもらえる。
  そしていつしか自分がシニアになるかも。日本の新聞メディアにも登場するM緑さんやエアシー総本山の偉い人と名刺交換し、質問し、自分の考えをぶつけることができる。何度も繰り返して印象付けることができたら、何かいいことあるかも。

 ざっと挙げてみましたが、このような機会を得られたとして、それを活かすのも殺すのも己次第であるととみに思います。

 安全保障、それも日米関係に限定されますが、国内であれば平和安全保障研究所(RIPS)の日米パートナーシップなどは、特にアカデミックなキャリアを志向する方なら是非トライしたほうが良いものでしょう。

 また、ハワイのEast West Centerには、ハワイ大で修士号もしくは博士号取得を目指す応募者限定ですが、24か月資金を出してくれるフェローシップ・プログラムがあります。

 だいたいこんな感じです。