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4/22/2014

オバマ訪日、日米関係を太平洋網へ拡大する時

ちょうど1カ月前になりますが、ワシントンで日米関係についてのトラック1.5(政府当局者と民間識者の双方が参加する)の会議があり、両国の政治、経済、そして安全保障について意見が交わされました。

クローズドな会議のため内容は詳らかにできませんが、若手として末席で議論、指摘、批判、反論、応酬を聞いていた身として、オバマ大統領の訪日直前に意見を述べたいと思います。

中国のプレッシャー、予測不可能な金正恩の北朝鮮と、東アジアの安全保障は過去数年変わらないチャレンジに直面しています。

日米関係の内部に目を向ければ、米国の力の限界、財政的制約と国防費削減、国民の内向き・対外関与に消極的な姿勢が一方の課題であり、他方で安倍政権の方向性、歴史問題をめぐる摩擦、人口減少する日本の国力の持続性がともすれば懸念材料とされています。

不確実性の時代に財政的にも外交的にも緊縮的な米国と、内外の挑戦を受けて、日米関係を再定義しアジア太平洋の安全保障秩序の再構築が求められているのが、現在の情勢と言えるでしょう。

合衆国大統領としては18年ぶりに国賓として日本を訪れるオバマ大統領と、安倍首相の首脳会談では、変動するアジア太平洋に両国が機軸となっていかにアプローチするか、特に東シナ海の尖閣諸島のみならず、南シナ海でも周辺諸国と摩擦を引き起こし、紛争リスクを抱える中国に明快なメッセージを送ることが肝要となります。

なお、TPPの対立する事項について政治決断で乗り越えて大筋合意に持っていくのは、今回の訪日でなければならないものではありません。

米国の政治事情から、中間選挙前にオバマ大統領が議会からTPA(貿易促進権限)を得る可能性は極めて低く、最終的にTPP交渉が包括的に妥結するのは来年以降と踏みます。

オバマ大統領は、今回の訪日で日米安保への強いコミットメントを再保証することが不可欠でしょう。シリアやウクライナ、世界の裏側での外交でオバマ大統領のアクションを伴わない言葉に対する信頼度は低下していますが、それでも東京ではっきりとした文言で日米関係を強調することに意義はあります。

過去数ヶ月に安全保障政策でいくつかの決断をし、安定した政権基盤の上にリーダーシップを発揮できた安倍首相は、日本の国際協調主義への転換をアピールするとともに、日米関係を通して地域のスタビライザーたらんとするところを明確化する必要があります。

現段階では時期尚早でしょうが、日米は二国間に加え、多国間の枠組み作りの形で、より重層的で安定的な地域の安全保障体制を支える共通のビジョンを打ち出せたら良いと考えます。

拡大された戦略的ネットワークは、日米が地域の安全保障と、その上に成り立つ経済的繁栄にコミットする有用なツールとなるでしょう。

もちろん、中国に対する脅威認識と対応や、北朝鮮政策において、日米関係の中にもギャップが生ずることは、互いが互いの国益を追求していく中においてあり得ることです。

そこで、前もってビジョンをしっかり共有しておけば、方向性が大きく食い違うおそれは小さくなります。言わずもがな、関係をメンテナンスする上で両国間での緊密な協議を増やすことが求められます。

21世紀の国際政治の重心は、我々が生きるアジア太平洋にあります。この大きな歴史的地政学的変化に適応するため、この日米関係を再強化し、存分に活用することが求められています。


4/13/2014

プーチンのガーデニング

 クリミア編入から3週間とちょっと。ロシアによるさらなるウクライナ領の切り取り、それはwhether(起きるか否か)ではなくwhen(いつ)が問題だったわけですが、新生ロシア帝国初代皇帝陛下はこの週末に動いた模様です(guardian記事 BBC記事

  欧米の政策当局者やメディアは大騒ぎですが、プーチン大統領にとってはお庭の手入れをするようなものでしょう。いやわりとマジでそんな感覚だと思います。

 国境付近に軍を集結させて今にも大侵攻との観測を出させながら、謎の武装集団オソロシアを繰り出して各都市の治安当局建物を占拠するというオプションを選んだのは、害虫駆除に戦車は要らぬと言ったところでしょうか。よく統率されている組織化されたオペレーションと表現されていますが、無秩序に銃を乱射する武装勢力よりはなんぼかマシでしょう。

 軍事的、局地的、短期的にウクライナやこれをバックアップする欧米がロシアに対抗する術はありません。クラウゼヴィッツ曰く「戦争とは別の手段による政治の継続」である以上、最終的に政治的に巻き返すことは不可能でないでしょうが、それは何を目的とするかに次第でしょう。
 
 クリミア(海軍基地)に次いで東部(工業地域)の確保に乗り出したわけですが、行けるところまで行くなら、南部のオデッサも掌握したいのが偽らざるところでしょう。先月28日付のForeign Policyの着眼では、オデッサの港からロシアの武器が中東方面に輸出されているようで、仮にオデッサが使えないとすると、武器を運ぶ海運会社Rosoboronexport社が使えるのはカリーニングラードとサンクトペテルブルグとなり、運搬コストが問題になるそうな。

<のーと>


○欧米(West)から見れば侵略なのだが、モスクワは心の底からこれが「奪還」の戦いだと見なしている。根底にある世界観の違いや世界観の形成に影響を与える歴史を理解し、ウクライナ危機を拡大された歴史の文脈に置かなければ、ワシントンや欧州の政策担当者は過ちを犯す虞がある。

○プーチンとクレムリンの仲間たちの世界観はいたってシンプルで至極読みやすい。彼らはリアリストで地政学的思考の持ち主で、勢力圏や緩衝地帯といった、西側が「古い」と見なす考え方を強く保持している。

○これに対してリアリスト的な答えは、「ロシアの勢力圏を尊重せよ」となるだろう。モスクワにとってまぎれもない安全保障上の核心的利益というものがウクライナにあり、それを守るためにロシアが許容できるコストとリスク、得られると考えているリターンは米国や西欧のそれとは比較にならないほど大きい。

○ソ連の栄光を取り戻したい、強いロシアの復活を目指すプーチンにとって、大局的には未だ「不利」な情勢にある。政変以降、ウクライナは彼の手を離れたままだ。「防衛ライン」がウクライナ内、それも東側まで後退したのは戦略的に容認できるものではない。

○「全盛期」はプラハやブタペストで両国の運命を決することができた。それと比較すると、今日のロシアはより自国に近いところでよりリスクの高い行動をしなければならない状況にある。そこに「恐怖」があり「安全保障のジレンマ」があり、状況をさらに悪化させる双方の政策ミスが起きるおそれがある。

○欧米諸国のウクライナに対するアプローチもまた誤った前提の上にある。

○ヤヌコビッチを追い出し暫定政権を作った連中は信頼ならざる「エニグマ」であると見なすべきだ。欧米は誤った側に立つ人間を支援し関与し失敗した経験がある。90年代のロシアにおいてオリガルヒの政権を、00年代のカラー革命に後にやはり腐敗した金権政治家に肩入れした結果がどうであったかを思い起こす必要がある。

○自由と民主主義の旗手を自称する者たちは、ウクライナのリアリティを無視したビジョンの投射をやるべきではない。ウクライナに少なからずいる民主主義者たちを失望させたくなければ、民主主義が根付く土壌をまずは用意するべきだ。

○法の支配の何たるかを知る者が、ソ連で生まれた政治家、オリガルヒ、テクノクラートらがどれだけいるか?  ソ連時代から抑圧の手段であった法執行機関が市民の人権を尊重しつつ治安維持の任務に当たれるか? 
○もしウクライナを自由民主主義陣営に迎えたいと思うなら、これらの領域におけるキャパシティ・ビルディングを行うことが中長期的な成功の条件となるだろう。